なぜかラグビーに魅了される。きっかけは2009年、私自身のけがだった。一緒にリハビリに取り組んでいた中に、ラグビー選手がいた。そこから興味を持ち、試合を見るようになった。

 ラグビー選手の人柄や、競技の歴史、ルールなどに触れていくうち、「なんて面白いスポーツなのだろう」と心から思えてきた。「ノーサイド」、「One for All, All for One」。ラグビーの精神を表す言葉は、どれも魅力的に響く。

 記憶に新しい2015年ラグビーW杯で、日本は一気に飛躍した。さらに、2019年には日本でW杯が行われることもあり、ラグビーの精神、素晴らしさを少しでも伝えていきたいと思った。

 9日、東京・秩父宮ラグビー場で大学選手権決勝を観戦した。今回は8連覇を達成した帝京大について書いた。

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8連覇を達成して胴上げされる帝京大・岩出監督
8連覇を達成して胴上げされる帝京大・岩出監督

 「勝ててホッとしました」。試合後、帝京大の岩出雅之監督(58)は、笑顔で話した。監督は、穏やかな雰囲気で明るい人柄だ。でも、緻密さもあり計画的。何か、話してみたいなと思わせてくれる人物だ。

 今年は帝京大も簡単には勝てないと感じていた。昨年と同じ、東海大との決勝。準決勝の2試合を見る限り、東海大のスクラム優位は予想されるところだ。始まる前から私も緊張していた。さまざまな人たちに「どちらが勝つと思いますか?」と聞いて回った。

 帝京大のプレーは、ノックオンのミスから始まった。いきなり14点をリードされた。それでも動じなかった。前半で同点に追いつき、ロッカーに戻った選手は「まだまだいける」という雰囲気を持っていた。自分たちの力を信じてラグビーをすることだけに集中できていた。その理由の1つに岩出監督が決勝で選手に与えたテーマがあった。

 「楽しもう」。

 ラグビーは見ての通り、痛い、怖い。しかし、その痛さや怖さを「楽しんでこい」と選手たちをグラウンドへ送り出した。疲れの出る後半、ネガティブな感情はチーム全体にほころびを生む。それを「楽しむ」ことで結束させた。

 岩出監督は、大学でスポーツ心理学の教壇に立っていることもあって、メンタル面のマネジメントが非常に巧みに感じる。

 以前、話を聞いた時、「チーム競技のチームワークをよくするのは、とても大変なことだ」と話されていた。つまり、競泳のような個人競技における「チームワークがよい」という定義とは、大きく意味が変わってくるのだろう。そのあたりは、本当に緻密だ。

 「過酷な練習だけが全てではない」。スクラムの強化が足りなかったことも、こう話している。日々のトレーニングの中には、セットプレーなど、さまざまな練習がある。身体のケアもある。スクラムだけを、時間をたくさん使ってやればいいというものじゃない。チームのウイークポイントになることを覚悟しながら、選手個々の「バランス」を考えた。

 大学生活は4年しかない。今さえ良ければいいのではない。選手には未来がある。そして、18歳から22歳はスポーツ選手として、人間として、確実に飛躍していく年齢。4年間は貴重な時間であるのだということを感じずにはいられない試合だった。

 「選手に成長の場を多く与えたい、教育が好きだ」。そう話す岩出監督の心はいつも選手たちに寄り添っている。これから先に待っている人生も考えて指導している。「偏った選手にはできない」。これが現代のスポーツ現場なのかもしれない。強いのは、人間的にバランスのとれた選手なのだろう。

 トップに居続けるには、孤独さもある。結果を出し続ける苦しさもある。しかし帝京大には、それらを「楽しさ」に変える“マジック”があった。新しいことに挑戦する勇気があった。8連覇を成し遂げたチームは、岩出監督とともにこれからも走り続ける。

【伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表】

ラグビー大学選手権決勝を観戦しました
ラグビー大学選手権決勝を観戦しました