11月も中盤に差し掛かり、いよいよ年末が近づいてきた。去年は出産を控えていたので日本で過ごしたが、年末はこれまで大体オーストラリアで過ごしていた。

元々、親戚やいとこ、友人も多くオーストラリアに住み、兄弟も留学をしていたのでなじみ深い。そして知れば知るほど、素晴らしい場所だと感じるようになった。その町で生まれ育った人が「世界で一番美しい」「とてもいい町」と大絶賛するプレゼンテーションを何度も受けていることも影響しているだろうか。

そんなことを考えていると、少しオーストラリアの空気が恋しくなり、首都キャンベラに住む日本人の友人とテレビ電話した。外の風景は春で、今年はまだ少し肌寒いと言っていた。

私が一番聞きたかったことは、「オーストラリア人のコロナへの向き合い方」だった。なんと言ってもオーストラリアは、3月20日以降すべての渡航者の入国を禁止した国だ(オーストラリア国民、永住者を除く)。5月には連邦政府が”The Australian Institute of Sports (AIS) Flamework For Rebooting Sport In COVID-19 Environment”という名前でスポーツ活動に関するガイドラインを発表している。最近では感染者が国全体でひと桁にまで減った。いち早く動いている国という認識が、私には強くあった。

友人によると、現在は少しずつレストランやスポーツジムも人数制限をしながら営業していて、経済活動も進んでいるとのことだ。日本と同じで、家でのエクササイズが人気となり、トレーニング機器がかなり売れているという。家のリノベーションも流行って、建築関係はかなり忙しいと言っていた。

こんな我慢の日常に「オージー」たちはどのように向き合っているのだろう。そう思って友人に聞くと、「我慢することは当たり前、一番の弱者を守りたいというチームワークだった」と話したのだ。一番の弱者とは、持病がある人や、老人など、重症化する可能性がある人たちのことである。

その友人の表現では「誰も見捨てない国」なのだと。医療費が払えず治療が受けられないことはほとんどないらしい。重病患者がいたらどこでも駆けつける医療体制をコロナ禍において整えた。キャンベラでもコロナ病棟を建て続けた。感染者がいないときから建築に着手し、医療崩壊を避けたという。

日常生活でも、少しでも風邪の症状があったら、PCR検査を無料で受けることが普通になっている。「とにかく弱者を守りたい」。この一心での一体感はなんだか聞いていて泣きそうになった。「誰1人取り残さない」ことを目指す、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)を思い出しながら聞いた。

最近やっと、州ごとの行き来が緩和されてきたようだ。ただ、大都市メルボルンがあるビクトリア州は感染者が多かったこともあり、いまだ緩和されていない。民主主義の国で唯一、国民と永住者の出国を禁止した国でもある。

なのに、不満ではなく、どうやったら楽しめるか、また今一番重要なことは何なのかを友人たちは考え行動している。私が大好きなラグビーもシーズンが始まる前から徹底した隔離対策を施して練習に励んでいたようだ。

5月に発表された規制解除へのロードマップも現在はステップ3のうちステップ2まできており、少しずつ生活がリラックスする方向に向かっている。

私も友人と会話をして、もっと視野を広げ、違う側面から物事を考えていくきっかけになった。どんな形であれ、つながることは自身のアップデートに必要なことだと感じた。友人に心から感謝したい。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪競泳代表)