東京パラリンピックの開会式の選手入場行進で、身長2メートル46センチのイランの英雄がひときわ目を引いた。シッティングバレーボールのエース、モルテザ・メフルザドセラクジャニで、前回リオデジャネイロ大会金メダルの立役者。競技は座ってプレーするが、開会式は松葉づえを使って歩いていた。

成長ホルモンの病気で身長が伸び続ける一方、10代の時の事故の影響で右足の成長が止まり、歩行が困難になった。彼はその障がいを、パラリンピックと出会ったことで大きな価値へと変えたのだ。シッティングバレーのイランの試合を見たくなった。

東京に、超人たちの夏がやってきた。

今やパラリンピックの顔となった“ブレード・ジャンパー”陸上男子走り幅跳び(義足T64)のマルクス・レーム(ドイツ)は、6月の欧州選手権で自身の記録を更新する8メートル62の世界新をマークした。東京五輪の金メダル記録(8メートル41)を23センチも上回る。あのマイク・パウエル(米国)の健常者の世界記録8メートル95に、今最も近い男だ。

シングルス5連覇を狙う卓球女子(立位10)のナタリア・パルティカ(ポーランド)は、右前腕の欠損というハンディがあるが、08年北京大会から五輪にも出場。東京五輪でも勝利を収めている。陸上女子(車いす)のタチアナ・マクファデン(米国=陸上女子)は、前回の4冠に飽き足らず、400メートルからマラソンまで5冠を目指すと報じられている。

人間の可能性は私たちの想像をはるかに超えて、果てしないのだ。それを限界に挑むパラリンピックのアスリートたちが、教えてくれる。

超人は日本にもいる。今回、最も楽しみなのが夏冬合わせて8度目のパラリンピック出場となる土田和歌子。女子のトライアスロン(PTWC)とマラソン(車いすT54)の過酷な“二刀流”に挑む。両競技の間隔はわずか1週間。「やってみなければ分からないが、ベストを尽くす」の彼女の言葉を聞いて今からわくわくする。

東京パラリンピックは「多様性と調和」をテーマに掲げている。障害の垣根を越えて認め合う「共生社会」の実現を目指すという。しかし、今日から13日間は、そんな立派な看板など忘れて、ただアスリートたちの人間の可能性へのチャレンジを楽しみたい。【首藤正徳】

東京パラリンピック開会式 イランの入場行進(ロイター)
東京パラリンピック開会式 イランの入場行進(ロイター)