まだ「新型コロナウイルス」という言葉さえ知らなかった、2年前の夏。19年7月24日、その日は東京五輪開幕の1年前だった。

私は大阪市内で行われたイベントで、フィギュアスケート男子の宇野昌磨(23=トヨタ自動車)を取材していた。初出場だった18年平昌五輪で銀メダル。「五輪」の舞台だけを特別視しない宇野だが、シーズンオフ、東京五輪1年前というタイミングが重なり、夏季五輪について聞いてみた。

宇野昌磨(左)と山本聖途
宇野昌磨(左)と山本聖途

返ってきた答えは、少しばかり意外なものだった。

「山本聖途くんには何度かお会いしている。昨日の練習に行くときも、テレビで特集をやっていました」

東京五輪で行われるのは、33競技339種目。数え切れないアスリートが輝き、過去に歴史を刻んできた。その中で宇野が真っ先に名前を挙げたのが、同じトヨタ自動車に所属する陸上男子棒高跳びの山本聖途(29)だった。こう続けた。

「すごく何回も話したことがあって『親しい』というわけではないけれど…。(平昌)五輪に出たけれど、五輪を『見る』っていうのも特別なことだと思う。自分の知り合いが五輪に出るっていうのは、やはりまた違った感情で見られるのかな」

2019年4月の織田記念で優勝した山本聖途
2019年4月の織田記念で優勝した山本聖途

一方の山本は12年ロンドン、16年リオデジャネイロと五輪2大会連続出場。現在は3大会連続が懸かる東京へ、佳境を迎えている。

まず目指すのは5メートル80の五輪参加標準記録突破。だが、新型コロナウイルスの影響で海外合宿が行えず、棒を使った跳躍練習が満足にできていない。真価が問われるのは24日開幕の日本選手権(ヤンマースタジアム)。約3週間後に控える大舞台だが「1回跳躍ができればいいかな、というレベル。跳躍と助走をうまくかみ合わせる練習ができない状況です。気持ちの部分は、走りのトレーニングがうまくできていれば大丈夫です。あとはイメージトレーニングをしっかりやって、うまくイメージを動きにつなげたい」と説明した。

制限された環境で懸命に準備する山本に、年下の宇野について聞いた。ほほえみながら、こう明かした。

「同じトヨタの選手。情報は入ってきます。テレビで大会があれば見ますし、世界で戦う姿を拝見しています。ずっと世界で活躍しているので、常に『すごい』と思っている。憧れのようになっていますね」

「聖途」の名は「五輪の聖火台に向かって一途(いちず)に頑張れ」という、元陸上選手の父の願いで命名された。12年ロンドン五輪、16年リオ五輪では本来の跳躍ができずに記録なし。そんな悔しい思いを胸に、ここまで歩んできた。

「あまり(普段)名前の由来を気にしてはいないんですけれど、名前の由来で知ってもらっているのもある。名前に恥じない結果を残したいと思っています」

新型コロナウイルスの影響で、1年延期となった東京五輪。東京大会の約半年後には、22年北京冬季五輪がやってくる。

きっと、互いの姿が励みになる。【松本航】

◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。武庫荘総合高、大体大ではラグビー部に所属。13年10月に日刊スポーツ大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からは西日本の五輪競技やラグビーが中心。18年ピョンチャン(平昌)五輪ではフィギュアスケートとショートトラックを担当し、19年ラグビーW杯日本大会も取材。