レスリング女子で3度の五輪と世界選手権を合わせて16大会連続世界一に輝き、12年に国民栄誉賞を受賞した吉田沙保里(36=至学館大職)が8日、現役引退を発表した。

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吉田は天才“だった”。誰もが口をそろえて言う。

中京女大(現至学館大)に入学当初、練習以外の練習はしなかった。全体練習後はすぐシャワーを浴び、強くなろうと筋トレに励む先輩を見つけると「えっ、まだやってるんですか? もう帰りましょうよ」と“悪の道”に誘う人だった。食事の基本も菓子類。ご飯は好きなときにだけ食べて、嫌なら食べなかった。

それでも強かった。「本当に努力していなかったです。普通、負けても『あれだけやってきたんだから、仕方ない』と言われますよね。でも、あの子は負けたら『やっぱりな』と言われることがいっぱいあった。でも、勝っていた」。大学の先輩で「ねえねえ(姉姉)」と慕われる栄怜那さんは述懐する。周囲は、努力することのむなしさを植え付けられるだけだった。

それでも、吉田が勝てない人はいた。同じ階級の女王の座には、常に山本聖子(ダルビッシュ聖子)さんが座っていた。雲の上の存在だと、あきらめていた。

その姿勢が変わったのは01年10月。宮城国体のエキシビションで、女王と位置づけられ、4連敗中だった山本聖子に初めて勝ったときだったという。目の前には「五輪」が現実味を帯びて広がった。そこから、練習以外の練習が始まった。

「霊長類最強」への道のりは「努力」の文字が加わったことで始まった。ただ、それは努力によって一から築かれたというよりも、勝つ味を覚えたことで努力する楽しさに気づいた、という方が正しいかもしれない。

そんなエピソードも、無邪気な吉田らしくある。