羽生結弦(25=ANA)がSP111・82点の世界最高記録をマークした。冬季オリンピック(五輪)2連覇を遂げた18年平昌五輪のショパン「バラード第1番」に今大会から回帰。全ジャンプを異次元のGOE(出来栄え点)で決め、自身が持つ18年ロシア杯の110・53点を「1・29」更新した。初優勝へ首位発進。続く日本勢はジュニアの鍵山優真(16=星槎国際高横浜)が5位、友野一希(21=同大)は7位となった。

羽生が20年初戦で世界新を打ち立てた。進化版「バラード第1番」のパッセージ(つなぎの旋律)に合わせて「久々に雑音なく無心で滑れた」。4回転サルコー、完璧。4回転-3回転トーループ、完璧。トリプルアクセル(3回転半)も完璧だ。平昌五輪以来721日ブランクのバラ1だったが、通算4季目のリズムは心身に刻まれていた。青から薄緑に新調した衣装で「音に合わせて跳ぶ形を体が覚えていた」。妖艶な表情で締めくくると、無数に浴びたプーさんを拾った。

ジャンプのGOEが異次元だった。審査員9人中5人も最高5点をつけた4回転サルコーの4・43は、新ルール下の自身最高タイ。3本で稼いだ計12・41点は前人未到の4回転アクセルの基礎点(12・50点)に匹敵する上乗せだった。「GOEの幅が(7→11段階に)増えた現状で最も点数が取れる構成」と自賛した。

背水の再出発。平昌後のSP「秋によせて」とフリー「Origin」を、シニア転向後10季目で初めてシーズン途中に変更した。バラ1と「SEIMEI」へ。昨年末に全日本で敗れ「弱い、弱っちいです」と己を責めた後、思った。「自分らしく、滑りたい」。

憧れたジョニー・ウィアーさんの前SP曲と決別。「フィギュアスケートって何だろう」と4歳から始めた競技自体を考え、年明けに決断した。「やっぱりジャンプと音楽の融合が好き」を、出場25選手トップの演技構成点48・40で証明した。「オトナル(秋によせて)をやったからこそ表現に深みが出た」。思い出せた。「フィギュアって楽しいな。これが自分だ」と。

ルール改正前に3度の世界記録を出した演目は、やはり最強だった。改正後も自らが持つSP記録110・53点(18年ロシア杯)を1・29点、更新する111・82点。焼き直しだからとは言わせない自負がある。

羽生 ワインやチーズみたいなもので、滑れば滑るほど、時間をかければかけるほど、熟成されていって深みが出るプログラム。とっても自分らしい。心から曲に乗れた。これまでのバラ1の中で最も良かった。

平昌と比べても「経験値も音の感じ方も間の取り方も、どう表現するかも違う」と2年間の成長を実感。ショパンが25歳で作曲したバラ1を、25歳になった羽生がよみがえらせたのも運命的だった。さあ首位で9日のフリーへ、6冠完全制覇スーパースラムへ。初優勝で決める、令和版「SEIMEI」で。【木下淳】