375日ぶりに錦織が戻ってきた。日本のエースで、第6シード、世界34位の錦織圭(30=日清食品)が、昨年8月30日の全米3回戦以来、公式戦に復帰した。しかし、元ジュニア世界王者で同47位のミオミル・ケツマノビッチ(セルビア)に6-4、4-6、2-6で敗れ、勝利で飾れなかった。今大会には、西岡良仁(24)と組んだダブルスにも出場している。シングルスの次戦は、14日開幕のイタリア国際(ローマ)の予定だ。

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強い日差しが赤土のクレーコートを照らす。錦織は負傷していた右腕にサポーターを着けていた。第1セットの立ち上がりこそショットは不安定だったが、すぐ修正した。ブランクを感じさせない強烈で正確なショットを連発する。21歳の若い相手を左右に揺さぶり、経験値の違いを見せつける。相手サービスゲームを物ともせず、ポイントを重ねていった。

第5ゲーム、サーブが少し荒れたが、ここも粘ってキープし、5-0。だが、ここから状況は一変する。相手の強いショットに押し込まれ、ミスも重なって形勢は逆転。4ゲームを連続で奪われた。暑さが厳しく、試合から離れていた時間が長かった分、ゲーム体力への不安が見えた。

それでも第10ゲーム、相手とのストローク合戦に競り勝ち、劣勢からポイントを逆転。ここ一番で持ち前の「マラソンマン」ぶりを発揮し、第1セットを6-4で奪った。

ケツマノビッチとは初対戦だったが、十分に顔見知りの間柄だ。米フロリダにあるIMGアカデミーをともに拠点とする。また、ケツマノビッチが、セルビアから13歳でIMGアカデミーに留学してきたとき、最初にコートで練習したのが、今年から錦織の新しいコーチに就任したミルヌイだった。

その点、相手としてのやりにくさはなかっただろう。ただ、クレーでの実戦は、昨年6月の全仏準々決勝対ナダル戦以来462日ぶり。加えて、山間にある高級リゾート地は高所で、標高約800メートル。空気が薄く、球が、想像以上に弾むのになれるのは、時間がかかったかもしれない。

錦織は、昨年8月の全米を最後に、右ひじのけがでツアーを離脱。同年10月には内視鏡手術を国内で受け、そのまま今年の3月まで国内でリハビリとトレーニングを続けた。3月に復帰予定も、新型コロナウイルスの感染拡大で、世界ツアーが中断した。

同ツアーが再開後、全米前哨戦での復帰を予定していたが、8月16日に新型コロナウイルスに感染したことが判明。全米前哨戦の欠場を決めた。同月26日に、3度目の検査で陰性となったが、31日に開幕した全米は、準備不足もあり欠場していた。

第2セット、一進一退の攻防から錦織のミスが次第に目立つようになった。粘り切れず4-6と押し切られると、続く第3セットも相手の勢いに押された。あえなく3ゲームを連取された。第4ゲームをブレークし、1-3と食い下がる。続けてサービスゲームをキープし、必死に流れを取り戻そうとした。だが相手の勢いが勝り、力尽きた。

27日開幕の全仏オープンに向けた試金石ともなる今大会だったが、幸先良い1勝とはいかなかった。