常翔学園(大阪第3)の野上友一監督(62)が、試合後につぶやいた。3点リードの後半31分にトライを許して逆転負け。3大会連続の8強に、あと1歩届かなかった。

「これだけ一生懸命やっていても、当日のゲームで何があるか分からん。油断せず、もっともっと、鍛えなアカンのやろな」

3月20日のことだった。新型コロナウイルスの影響で同月4日から続いていた在宅学習が明け、大阪市内の学校横にある淀川河川敷グラウンドに選手が集った。野上監督が呼びかけた。

「全員で祈るぞ」

選手は輪になり、そっと目を閉じた。

その数日前、20年近くチームに携わってきたOBで、トレーナーの今木哲也さんが突然倒れた。1カ月ほど前から「胸が痛い」と漏らしていた。自宅で眠り始めた時、意識がなくなったという。救急車で集中治療室(ICU)に運ばれ、延命措置が施されていた。

人工心肺を装着した翌日、野上監督は今木さんの家族から連絡を受けて、大阪・八尾市内の病院に駆けつけた。50代前半の教え子に向かって、こう叫んだ。

「おい! 起きろ!」

反応はなかった。

人工心肺を外す瞬間、野上監督は待合室で待っていた。最悪の展開も頭によぎる中、今木さんの娘に「心臓が動いていた」と聞いた。「祈るしかない」-。そう考えて、部員に伝えた。

3月20日の練習が終わりに近づいた時、野上監督の携帯電話が鳴った。河川敷の堤防を歩きながら電話に出ると、すぐさま練習中の部員を全員集めた。

「意識が戻ったぞ。奇跡や!」

河川敷に歓声が響いた。

その3日後、コロナ禍で活動自粛再開となり、練習はまたできなくなった。グラウンド練習の再開には約3カ月を要し、夏合宿も見送った。8月30日に臨んだ交流試合が、2月の近畿大会以来となる実戦だった。

それでも現場復帰を果たした今木さんと共に、全員で前に進んだ。不思議な力を持ったチームだった。

この日、花園第3グラウンドには涙に暮れる部員たちがいた。1年間を振り返り、野上監督は言った。

「高校ラグビーって難しい。かなり自信のあるチームやったから。うちは何も悪くない。流通経大柏の健闘が予想以上やった。相手の強さを褒めるしかない」

結果は負けた。それでも1年間の歩みに、常翔学園は胸を張った。【松本航】