フェンシング女子サーブルの江村美咲(24=立飛ホールディングス)が明日22日開幕の世界選手権(イタリア・ミラノ)で2連覇に挑む。阪神、ロッテで活躍した鳥谷敬氏(42=日刊スポーツ評論家)がアスリートに迫る「鳥谷敬×パリ五輪の星」。第10弾は24年パリ金メダル有力候補の知られざる1年間に迫った。昨夏の世界選手権で日本女子初の優勝を飾った後、度重なるケガに苦しみ続けたという世界女王。2回連載の前編ではプロ野球歴代2位の1939試合連続出場を誇る鉄人の哲学も吸収し、再び頂点を目指す覚悟を明かした。【取材・構成=佐井陽介、木下淳】
◇ ◇ ◇
鳥谷 パリ五輪が1年後まで近づいてきました。
江村 東京五輪は実力が全然足りていませんでした(個人3回戦敗退)。パリはメダルを現実的に考えられる五輪になっている。楽しみな気持ちがある一方で、東京の時とは違う、勝てるようになったからこその苦しみもすごくあります。
鳥谷 東京五輪後の一時期は「燃え尽き症候群」に陥ったそうですね。それを乗り越えて22年夏には世界選手権で優勝されました。
江村 東京五輪では強い選手といい勝負ができて、悔しい気持ちも強くて。そのまま全然休まず練習していたら燃え尽きちゃって…。でも、フランス人コーチに悩みを聞いてもらって、本場の技術も教えてもらって、新しい自分に変われました。当時は勇気を持って2週間休んで金沢旅行に出かけたり。ただ…22年夏からの1年間もケガに苦しめられて大変な1年だったんです。
鳥谷 えっ、全然知りませんでした。
江村 実は優勝した世界選手権の途中から、蹴る時にすごく力が入る後ろ足の左足甲に痛みが出ていて。エックス線検査をしても何も写らない。衝撃波の治療もあまり効かない。休んでも良くならない。練習すればやっぱり痛い。そんな時期が今年2月まで続いたかと思えば、今度は6月に右上腕三頭筋を肉離れしてしまって…。今は腕が治って、足も割と落ち着いてきて、ようやくフルで練習できるようになった状態です。
鳥谷 そんな状況だと心が折れそうになりますね。
江村 ありたい選手像になれない自分がすごく嫌で落ち込みました。練習ができない日々はやりがいを感じられない闇の時期でした。私はもともと「完璧主義」で、完璧な準備をした状態で試合に行きたい。それなのに、6月のアジア選手権(個人5位)は全く完璧な準備ができなくて、正直すごく苦しかったです。
鳥谷 そこまで追い込むタイプだと休日のリラックスも大切になりそうです。
江村 疲れて何もできない時はひたすら寝ます。ちょっと元気がある時は買い物か美容室。美容室は1カ月半に1回ぐらい行かないと髪色を保てないので。パリまでは気が変わらなければ金色で。あっ、でも験担ぎではないですよ(笑い)。ちなみに鳥谷さんはケガをしている状態で、事情を知らない人からいろいろ言われながらプレーするのは苦しくなかったですか?
鳥谷 自分は試合に出続けた13年間で6度骨折しています。脇腹肉離れの時は振った瞬間にブワーッと患部に血が流れる感覚があって、1打席で1球しか振れない状態が1カ月続きました。当時は本当に泣きたいぐらいで、毎日寝る時に「頼むから目覚めたら治っていてくれ」と願って…。ただ、自分は何を言われても『仕事だから』と完全に割り切っていましたね。自分に興味があるから文句を言ってくれる。成績を残せばいずれ逆の評価をしてくれる人たちだと考えました。
江村 参考になります!
鳥谷 そういえば2年前に西武ー楽天戦で始球式をされているそうですね。
江村 すごかったです! コロナ禍で入場制限があったのに、それでも7000人ぐらいのお客さんがいて。毎日これだけの人に注目してもらえる野球選手を本当にうらやましく感じました。私は街中で声をかけられたこともないし、試合も全然…。たまにエゴサーチしても、全く見られてないんだなって…(笑い)。
鳥谷 絶対にそんなことないです(笑い)。世界選手権では27日に女子サーブル個人戦の決勝トーナメントを迎えます。男女通じて日本初の大会2連覇に挑む舞台への思いを聞かせてください。
江村 もう本当に五輪だと思って挑みます。今ここで勝てない人間が五輪で金メダルを取れるわけがないと、あえて自分にプレッシャーをかけて頑張ります。(後編に続く)
◆江村美咲(えむら・みさき)1998年(平10)11月20日、大分市生まれ。父宏二さんは88年ソウル五輪フルーレ代表。08年北京五輪では日本代表監督として太田雄貴を日本初の銀に導く。母孝枝さんもエペの世界選手権代表。小学3年で始め、JOCエリートアカデミー(大原学園高)から中大。16年リオ五輪はバックアップ。21年東京五輪は団体で5位。W杯とGPのメダル獲得数は7(金1銀3銅3)。21年4月から日本初のプロとして立飛ホールディングスを筆頭に複数社と契約、スポンサー費で競技に専念する。コロナ禍にスポーツフードスペシャリストの資格を取得。170センチ。右利き。血液型A。


