上昇カーブを描く男子平泳ぎの冨田尚弥(22=中京大4年)が、再び「大きな山」に挑む。4月の国際大会代表選手選考会の200メートル。五輪2大会連続2冠の世界王者・北島を向こうに回し、2分8秒25の好タイムで制した。北島が右足内転筋を肉離れしていたとはいえ、高速水着が禁止された昨年以降では世界最速記録。文句なしの内容で初めて土をつけた。そして今回、五輪切符をかけての真剣勝負となる。

 「康介さんに勝った時の喜びは格別でした。僕は相手が強ければ強いほど、そして会場が大きければ大きいほど、ワクワクするんです。それが持ち味だと、(草薙)コーチも言ってくれるんで」と言う。根っからのプラス思考。これまで結果が伴わなくとも明るく、笑顔で努力を重ねた。そんな前向きさが、最大の魅力であり、武器だ。

 2年前の世界選手権に出場したが、予選落ち。しかし、初めて日本代表を経験したことで目標が定まった。五輪の金メダル-。174センチと上背はないが、がっちりとした幅のある体格。ストロークを強くするため、筋トレで広背筋を鍛えた。スタート、ターン後の「ひとかきひと蹴り」がより大きく前へ進むようになり、結果が伴うようになった。昨年のアジア大会、世界短水路選手権の200メートルで金メダル。その勢いで、今季の北島食いにつなげた。

 偉大な先輩と比較し、自らに足りないものは「国際経験、勝負強さ」と言う。一方で自身の長所は「康介さんよりも大きな泳ぎができる。あと、スタートの飛び出しで勝てる自信がある」と胸を張った。上野総監督から「いつかは倒さなくてはならない相手」とハッパを掛けられ、「僕には失うものがない」と意気込む。国際都市・上海で迎える日本人同士の大一番。世界最高峰の「キタジマ」踏破へ-。冨田は迷わず、恐れず、自らの力を信じて突き進む。【佐藤隆志】

 ◆冨田尚弥(とみた・なおや)1989年(平元)4月22日、愛知県春日井市出身。東海市・横須賀中から豊川高へ。高校3年でインターハイ2冠。中京大2年の09年世界選手権で初の日本代表入り。昨年はアジア大会、世界短水路選手権で200メートル優勝。今年4月に出した同種目2分8秒25は自己ベスト。生まれてこの方愛知県一筋。174センチ、73キロ。血液型A。