<水泳世界選手権>◇第9日◇28日◇バルセロナ◇男子400メートル自由形決勝

 萩野公介(18=東洋大)が平成の「トビウオ」を襲名する。8日間で最大8種目、20レースに挑む萩野は最初の決勝となった男子400メートル自由形で3分44秒82の日本新記録を出し、銀メダルを獲得した。同種目の世界大会メダルは60年ローマ五輪の山中毅の銀以来53年ぶり。かつて故古橋広之進さん(享年80)が自由形で世界記録を連発し「フジヤマのトビウオ」の異名を取ったが、常識を覆す18歳が日本の自由形再興の灯をともした。

 18歳が日本水泳界の時代を変えた。半世紀以上も低迷していた自由形。萩野は、高かった世界の壁を打ち破り、世界大会の男子400メートルで53年ぶりのメダルを勝ち取った。「タイムは遅かった。泳ぎには納得していないところもある」。日本記録更新のタイムにも満足感はなかったが、レース展開はほぼ予想した通りだった。

 圧巻はラスト50メートル。4位でターンすると、トップギアにチェンジ。激しいかきとキックで水をたたき割るように進む。左隣コースのコクラン(カナダ)を抜き、ゴール間際にはジェガー(米国)もとらえた。3位とわずか100分の3秒差の銀メダル。勝負強さも光った。

 予選後、日本代表の平井伯昌ヘッドコーチ(50)を含む数人のコーチと会談した。ただ指示を待つだけではなく、決勝レースについてディスカッションした。結論はメダル獲得のためには、予選2位通過で隣を泳ぐコクランを徹底マークすることだった。平井ヘッドとはラスト50メートルのターン後、ドルフィンキックで抜くことまで綿密に打ち合わせ、計画通りに実行した。

 53年ぶりの世界大会メダルとなった同種目。かつては日本のお家芸と言われていた。故古橋さんは第2次世界大戦後、同種目を含む自由形で世界記録を連発。敗戦で疲れ果てた国民の心を癒やした。半世紀以上にわたって立ちはだかった世界の壁を乗り越えた萩野は今後「平成のフジヤマのトビウオ」として花形種目での活躍が期待される。

 ロンドン五輪銀の朴泰桓(韓国)は欠場し、銅のバンダーケイ(米国)は引退。「有力選手が出ていない中で、チャンスをものにできたのは良かった」とメダルの結果に価値を見いだした。3年後のリオデジャネイロ五輪では日本人初の同種目金メダルが目標になる。古橋さんもなしえなかった夢も広がった。

 8日間で最大8種目に出場する今大会。大事な初日に53年ぶりの快挙を成し遂げた。昨年ロンドン五輪でも初日の男子400メートル個人メドレーで銅メダルを獲得。日本チームに勢いを与え、戦後最多11個のメダルを導いた。18歳が初日から自身と日本チームに勇気と勢いを与えた。【田口潤】