<水泳世界選手権>◇第11日◇7月30日◇バルセロナ◇女子100メートル背泳ぎ

 寺川綾(28=ミズノ)が円熟の技で、日本女子最年長のメダルを獲得した。女子100メートル背泳ぎで前半6位から猛烈なスパートをかけ、59秒23で3位に滑り込んだ。大会前からケガ、レース前日には体調も崩したが、後半勝負の作戦を徹底した。ロンドン五輪後、後継者不在に危機感を抱き現役続行。五輪メダリストの使命感で、世界大会連続メダルを守った。50メートルは予選を28秒05の全体3位で通過し、準決勝も27秒70の全体2位で決勝に進出した。

 バルセロナでは焦燥感と戦う日々だった。仕上げで調子が上がってこない。寺川は「どこまでやれるかわからず、不安だった」と本音を漏らした。10年前、同じプールの世界選手権では200メートルの準決勝で敗退。苦い記憶も頭をかすめた。

 絶好調だった春先から金メダルに照準を合わせた。好事魔多し。6月に、足首に痛みが走る。骨や軟骨の一部がはがれる「ねずみ」という症状。苦しい調整をしいられた。追い打ちをかけるように、決勝レース前日には体調を崩す。

 心の支えは五輪メダリストの使命感だった。五輪後の昨年9月、岐阜国体を観戦。自分のいない女子背泳ぎは低レベルで、寂しさを感じた。01年の初代表から五輪銀の中村真衣、同学年の伊藤華英、五輪連続銅の中村礼子らと「最激戦区」を競ってきた。「自分は先輩を超えようと頑張った。底上げのために何かできないか」と現役続行を決めていた。

 日本女子背泳ぎのためにもメダルは逃せない。レース前に平井伯昌ヘッドコーチ(50)と相談し、金メダル狙いを断念。後半勝負でメダル死守する作戦に切り替えた。最初の50メートルは6位も「みんなが浮き始めたところでスパートを掛ける」と焦りはない。残り15メートル。全力で手足を動かし、3位に滑り込んだ。

 「今の力は出し切った」。レース後の目には光るものがあった。平井ヘッドからは「さまざまなレースパターンを試した経験がいきた」とベテランの技を評価された。ロンドンに続く日本女子最年長メダル。バルセロナを悪夢から歓喜の場所に変えた。【田口潤】