<高校野球茨城大会:常総学院7-0水戸啓明(7回コールド)>◇19日◇3回戦◇土浦市営球場

 五輪代表より俊足な?

 アスリート系エースが快投した。常総学院の147キロ右腕、伊藤侃嗣(かんじ)投手(3年)が7回を1安打完封。ノーヒットノーラン目前の2死で二塁打を許したが、中学時代100メートル走全国7位の身体能力で、フィールディングにも見せ場をつくった。

 いける。そう思っただけに、悔しさは苦笑になって表れた。「狙ってました。簡単に2死までいって、安心しちゃったのかも」。連続三振で7回ノーヒッターまであと1人。伊藤が投じた131キロのカットボールは、大きく左中間へはじき返された。初の大記録は露と消え、衝撃のひと言を放つ。「でも、投手やりたてで達成したらつまらないですよね」。そう、これでまだ投手歴1年なのだ。

 抜群の運動センスを誇る。186センチから投げ下ろす直球は、この日144キロ、7奪三振。6回無死一塁では、痛烈なピッチャー返しを難なくとらえ併殺とした。「短距離走のスタートと一緒です。フィールディングも反応の速さなので」。例えが独特だが、実は伊藤、めちゃくちゃ足が速い。

 中3の時、野球部なのに100メートル走で全国7位に入賞。10秒96をマークした。女子の部では、ロンドン五輪女子400メートルリレー代表の土井杏南(埼玉栄2年、当時中2)が11秒89で優勝している。「土井さん当時から有名で。今走ったら負けそうです」と笑い飛ばすが、男女の差こそあれ、五輪代表選手より1秒近く速かったことになる。5月の練習試合では、この日160キロを出した花巻東・大谷が守る中前への安打を二塁打にしてしまったほど。

 だから入学時は、「脚がウリ」の外野手だった。しかし送球に難があり、制球訓練で打撃投手を務めたことから昨年4月、本格的に投手に転向。自分に合うスタイルを見つけようと「片っ端からいろんな人をマネしました。先週マー君だったから今日はマエケンでいこう、みたいな感じで」。変化球も5種類まで増え、わずか1年で、プロが注目するまでに成長した。

 かつてのライバル?

 土井杏南は、もう日の丸を背負っている。「かっこいいなって刺激になります。自分も甲子園で活躍すれば、ああいうふうになれますかね」。五輪期間中に幕を開ける甲子園。その出場権を得るまで、伊藤得意のロケットダッシュは止まらない。【鎌田良美】