ロッテからFA宣言した今江敏晃内野手(32)が17日、都内のホテルで楽天との初交渉に臨んだ。星野仙一副会長(68)から直々に必要性を訴えかけられるなど、約50分間の話し合いを終えると晴れやかな表情を浮かべた。楽天は今季年俸2億円(推定)の今江に2年総額5億円程度の条件を提示したとみられる。現時点で他球団と交渉の予定はなく、近日中にも「楽天今江」が誕生しそうだ。

 闘将の口説き文句に、今江の心がぐらりと揺れた。人生初のFA交渉。緊張の面持ちでテーブルに着く。目の前には星野副会長が座っていた。直前まであいさつ程度の交流だった大先輩が、穏やかな表情で語りかけてくれた。

 星野副会長 ただ打って、投げるだけではない部分に期待しているんだ。数年前、テレビ番組で児童養護施設を訪問する姿を見た。思わず涙をにじませたよ。そういう背中を若手に見せて、学ばせたい。チームリーダーになってほしい。

 野球人である前に、1人の人間として評価してもらった。05年から社会貢献活動を続ける今江の心は、このひと言で大きく傾いた。「星野さんがすごく優しい表情をしてくださった。このFAは条件を求めて宣言したわけじゃない。非常にうれしかった。前向きに考えたいと思います」。楽天は2年総額5億円前後を提示したとみられ、梨田監督からは「三塁は空けて待つのが普通」という言葉も出た。それでも金額や待遇は問題ではない。力いっぱいの熱意と誠意を受け止めて、今江のほおは紅潮した。

 温かい約50分間だった。星野副会長からは、仙台に来てくれるなら俺の77番を渡すぞと冗談交じりに説得された。「さすがに重すぎるので遠慮しましたが…。お会いするまでは冗談を言うような人だとは思わなかった。珍プレー好プレーで見た、怖いイメージでしたので」と好印象を抱いた。徐々にだが確実に、楽天との距離は近づきつつある。「もう後戻りはできない。前に進むしかない」。ロッテはFA宣言しての残留を認めておらず、現時点で獲得の意思を表明している球団は他にない。入団が決定的とみられ「もう若い人間ではないので必要だと求められるところでやりたい」と話した。結論は持ち越したが、早ければ近日中にも「楽天今江」が誕生するかもしれない。【松本岳志】

 ◆今江の主な社会貢献 05年から千葉県内の児童養護施設や病院への訪問を開始。06年から障害者野球チーム「群馬アトム」と交流を始め、試合への招待やオフは練習に参加する。10年から1打点につき1万円を小児がん基金へ寄付。11年から東日本大震災の復興支援で福島県いわき市の小、中学校を訪問している。