<巨人8-5DeNA>◇9日◇東京ドーム
「人生初」のミスを1日で挽回した。巨人阿部慎之助捕手(33)が1、6回に適時打を放ち、中畑DeNAとの打撃戦を制した。前日の試合では9回2死、“勝利球”をまさかの落球でドローに持ち込まれた。「何日も待てない。取り返すとしたら明日しかない」との言葉通り、2打点で主将の面目を保った。巨人の2点差以上の逆転勝ちは今季初めて。今日10日に勝てば勝率5割に復帰する。
表情ひとつ変えない阿部が一塁ベース上にいた。2点を追う、1回裏2死一、三塁。バッターボックスに足を踏み入れると、静かに呼吸をする。胸を打つ鼓動を抑えるように平常心を保った。2ボール2ストライクからの6球目が勝負のときだった。真ん中に甘く入った143キロ直球に体が反応した。肘をたたみ、シャープにバットを振り抜き、中前へはじき返した。
前夜、勝利まであと1アウトという場面で「人生で初めて。頭が真っ白になった」と、本人ですら疑いたくなるような失策でDeNAに同点劇を許した。悪夢から約21時間後に迎えた第1打席。うっぷんを晴らす、豪快な1発よりも、チーム打撃に思いを込めた。
宇都宮から深夜に帰京し、明け方まで続く長い一夜を過ごした。正午すぎ、球場入りし「寝たのは4時すぎぐらいだったよ。寝られるわけないだろ」と、目は充血していた。だが、ボストンバッグを肩に担ぎ、ファストフード店のサンドイッチを手に明るく振る舞った。失策を報じたスポーツ紙を見て「結構、がっつりいってたね」と、ジョーク交じりに話すのも、サンドイッチにツナをトッピングするのも、いつも通り。平常心を保つことが、名誉挽回の近道だと信じた。
6回の第4打席。2死一、二塁の好機に恵まれた。ここでも、外角の変化球にバットをあわせる軽打で適時打を放ち、2打点目。通算800打点のメモリアル打になったが「それは知らなかったよ。バットのヘッドを返さないように我慢できた」と、ほっと胸をなでおろした。
原監督が「悔しくて、悔しくて今日という日を迎えたのでしょう」と、察するような苦境で恒例の早出ジョギングにダッシュを加えた。「罰走じゃないよ。走って悪いことはないから」。息を切らせて、無心で走ることで気持ちを切り替えようとしたのかもしれない。「マイナスに考えてもいいことはない。プラスにプラスに」と、不振に陥れば呪文のように繰り返す言葉にブレはなかった。
1試合を1打席で取り返せるほど甘い世界でないことは分かっている。「(失策を)返す、返さない、じゃない。結果を出すしかないでしょ。明日につなげていくだけ」と、短い言葉を言い残し、東京ドームを後にした。1打席ずつ、1試合ずつしか、ミスを取り返す方法はない。軽打で走者を確実にかえすような1プレーを続けていけば、いつしか脳裏に焼きついた悪夢は消えていくはずだ。【為田聡史】



