<プロボクシング:ノンタイトル10回戦>◇26日◇バンコク
【バンコク(タイ)=大池和幸】元WBC世界バンタム級王者の辰吉丈一郎(38)が5年ぶりの復帰戦でTKO勝利を収めた。得意の左ボディーなどでタイ・ランカーのパランチャイ(20)から2度のダウンを奪い、2回2分47秒レフェリーストップ勝ち。異国で再出発した。所属ジムから引退勧告を受け、ライセンスも失効して日本では試合ができない厳しい状況だが、試合後は現役続行とともに、今後も継続してタイのリングに上がることを宣言した。
辰吉がラッシュした。2回。左ボディーで最初のダウンを奪うと、一気にロープ際に追い込んだ。パンチに全盛期の切れはないが、回転の速い連打は健在だった。再びキャンバスに沈めると、パランチャイは半失神状態に陥った。即座にレフェリーが割って入り試合終了。辰吉は心配そうに敗者の顔をのぞき込んだ。
03年9月26日のアビラ戦(メキシコ)以来、1857日ぶりの実戦。会場は日本のように辰吉コールがわき起こった。勝者は笑顔も見せず、当然とばかりに勝ち名乗りを受けた。「久しぶりというより、デビュー戦に近い感じ。新しい発見だった。しかし、5年は長いよな…」。空白の時間をかみしめるように言った。
たった1人の再出発だった。青ラインの入った白地の部分には「JOE」の文字だけ。日本で入れていた家族の名前を記さなかった。「海外で試合するのに家族を引き連れたら迷惑や。1人でやろうと決めたんやから」。入場時は日本でのテーマ曲「死亡遊戯」も流さず、ガウンも着用しなかった。まさに裸一貫での出直しだった。
対戦相手の日本での戦績は5戦5敗で、すべて3回以内でのKO負け。典型的な「かませ犬」だった。その相手に「緊張した」という1回は何発もパンチを浴びた。衰えも隠せなかった。背中と腹回りに少し肉がつき、髪には白いものも交じっていた。それでもまだ戦い続ける。「チャンピオンになるのも大事だけど、ボクシングが好きなんですよ」。理由は単純明快だ。
ライセンスを失効した日本では、リングに立つことはできない。引退勧告をはねつけ、今後もタイのリングで、次なる可能性を探っていく。「日本で嫌われている以上はしようがない。とにかく試合数をこなしたい」。先は見えないが、次への橋は懸かった。生涯一ボクサーを誓った浪速のジョーは、まだ歩みを止めようとしない。

