11日に行われるプロレスラー小橋建太(46)の引退試合(午後5時、東京・日本武道館)に民主党の野田佳彦前首相(55)が来場することが7日、分かった。政界屈指のプロレスファンとして知られ、生観戦を熱望。首相だった昨年、リハビリ中の小橋に激励の手紙と色紙を送った縁もあり、「鉄人最後の日」を目に焼き付けるため、リングサイドへ駆けつける。

 1人のファンとして、小橋の最後を見ないわけにはいかなかった。野田前首相は「この試合だけは、生で見ないと失礼に当たる。絶対王者と呼ばれた人のラストファイトを見届けたい。これぞ小橋建太という試合、魂を感じる最後を見たい」と引退試合への思いを語った。多忙なスケジュールの合間を縫って、生観戦することを決めた。

 首相時代、政局をプロレスの言葉に置き換えて説明したこともあるほどのプロレス好きだ。幼いころから生活の中にその存在があった。「豊かではなかったが、父親がプロレスを見るために白黒テレビを買ってきた。力道山の空手チョップも記憶に残っています」。

 憧れのレスラーはジャンボ鶴田さん(故人)だった。「あれだけ基礎体力のあるレスラーはいなかった」とその魅力を話す。そして、鶴田さんと同じ「受けの美学」を小橋に感じたという。全身全霊で技を出し、相手の得意技を真っ向から受ける姿に同じように心を動かされた。「レスリングでお金を稼ぐプロレスラーはあまたいるが、見た人に感動を与え、生きざまを感じさせるプロレスラーは多くない。2人はその域に達したプロレスラーです」と思いを語る。

 野田前首相と小橋が今の世界で歩みをスタートさせたのは同じ87年。初めて千葉県議会議員選挙に立候補し当選した年であり、全日本に入団した年だ。練習生から努力で階段を駆け上がり、スターになっていく小橋の姿に自身を奮い立たせた。「小橋さんの姿に鼓舞され、勇気づけられた。私も頑張ろうと思った」と話す。

 取り組む姿勢も似ている。「練習の鬼」と呼ばれる小橋にも負けていない。地元の千葉・船橋市で、朝の街頭演説を86年から24年間続けた。「(街頭演説は)プロレスで言うとスクワットやブリッジ。基礎体力を付けることが、後に選挙を含めた基盤作りになったし、気持ちの面での支えにもなった。小橋さんも練習があの激しい試合を支えていたんだろう。何事も基礎は大切だと思います」。

 最後の日へのカウントダウンが進む。「残念で寂しいですが、何よりもご本人が一番続けたいはず。万感の思いを込めて感謝を伝えたいです」。ファン1人1人の感謝の気持ちが大きな声援となり、小橋を包み込む。【奥山将志】

 ◆政界とプロレス

 プロレス出身の国会議員は現在まで4人。アントニオ猪木が89年、スポーツ平和党を結成し同年の参院選で当選。初のレスラー出身の国会議員となった。その後、95年に馳浩が参院選に無所属で出馬し当選。00年には衆院選でも当選し、現在5期目。01年には大仁田厚が、参院選に自民党から出馬し当選した。04年の参院選に自民党から出馬し落選した神取忍は06年、辞職者が出たため繰り上げでの当選を果たした。国会議員以外では、03年に岩手県議選に当選し、覆面議員として話題になったグレート・サスケらの例がある。