味わい深く、軽妙な語り口で親しまれた俳優小沢昭一(おざわ・しょういち)さんが、10日午前1時20分、前立腺がんのため、都内の自宅で死去した。83歳。98年に前立腺がんが発見され、10年には頸椎(けいつい)に転移。治療しながら仕事をしていたが、8月から入退院を繰り返し、10月の退院後は自宅で静養していた。

 小沢さんが、静かに天国に旅立った。所属事務所によると、亡くなった際には、妻英子さん1人が寄り添っていたが、近所に住む長男と長女は間に合わなかった。静かに眠るように亡くなったようだと説明した。

 98年に前立腺がんが見つかり、10年には頸椎に転移していることが分かったが、入院せず放射線治療などを行っていた。同事務所は、転移には動揺を感じさせずに淡々とした様子だったと説明した。今年8月15日には猛暑の影響で、体力が落ちたことから25日まで入院した。体調が回復したように見えたが、9月に入ると、食事ができなくなり、同13日に再入院。所属事務所は「1、2週間様子をみるための入院で再入院後は病院内を歩き、コンビニにも出かけていました」と説明した。

 体力も順調に回復したように見え、小沢さんも自宅に帰りたがっていたことから、10月22日に退院した。退院の際は、喜んで自分で歩いてタクシーに乗り、自宅に戻ったという。退院したのは、自宅に医師が定期的に診療に来るなど、介護の体制が整えられてたのも理由の1つ。小沢さんは愛妻のもとで静養していたが、帰らぬ人となってしまった。所属事務所によると、最近は体力が落ちた様子だったが、誰も亡くなるとは思っていなかったと、説明した。

 小沢さんは、73年1月からTBSラジオ「小沢昭一の小沢昭一的こころ」(月~金曜、午後0時20分)のパーソナリティーを務め、軽妙な一人語りが人気を集めていた。番組は9月24日の放送から休み、傑作選など再放送の形で番組を継続し、今月7日まで1万410回の放送となっていた。11月16日には同5日に小沢さんの自宅で収録した内容も放送。「お休みしている今は、心にぽっかりと、穴があいているような、そんな空(くう)な感覚もあるんですね。ですから、早く元気になって、この心の空の穴を、みなさんと埋めていきたい、そう思うんであります。よろしく。また明日のこころだぁ~」。これが、最後の仕事、リスナーへの最後の言葉となった。

 ◆小沢昭一(おざわ・しょういち)1929年(昭4)4月6日、東京生まれ。早大文学部仏文科在学中から俳優座養成所に入り、52年に初舞台。54年ごろから映画、ラジオ、テレビに多数出演。73年、ラジオ「小沢昭一的こころ」放送開始。映画の代表作は「幕末太陽傳」「猫が変じて虎になる」「人類学入門」「にっぽん昆虫記」など。75年から5年間、劇団「芸能座」主宰、82年に「しゃぼん玉座」創設。民衆芸能の研究にも熱心で「日本の放浪芸シリーズ」は日本レコード大賞企画賞。94年紫綬褒章、01年旭日小綬章受章。