道しるべは常に、校舎の壁にあった。日本代表に初招集された昨年10月、ザルツブルクMF南野拓実(21)は大阪・興国高の垂れ幕の写真を受け取った。草島葉子校長への返信メール。「僕は通学の時に井岡さんの垂れ幕を見ながら、いつかこんな選手になろうと練習していました。親にもすぐに、送りたいと思います」としたためた。ひそかに追った、ボクシング世界王者の先輩だった。

 だんじりが有名な「泉州っ子」で、U-15(15歳以下)日本代表。「やんちゃな子では?」。そんなイメージを南野は全て覆した。2年時にはU-17W杯で8強入りに貢献。約1カ月のメキシコ滞在を終えると、帰国直後に担任の携帯が鳴った。「成績はどんな感じですか?」。余韻に浸るどころか、欠席したテストの心配をした。

 授業中に寝たことはなく、遠征後は友人のノートを拝借。休み時間を使い、遅れた分を必ず取り戻した。大阪城公園を走るマラソン大会では、約700人の大人数の中で手を抜かず20~30番でゴールした。C大阪ユースで積み上げる華やかな経歴には学校生活の優等生ぶりも加わっていた。

 高校2年冬。体育の授業中、サッカー部の内野智章監督(37)は南野から相談を受けた。「世界を考えて、僕のプレースタイルどう思いますか?」。ユース所属のため南野を指導することはないが、同じサッカー人として感じたという。「拓実の頭は高校という次元じゃなく、世界だった」。

 卒業文集には「オリンピックで活躍して世界にアピール」とある。通過点では止まれない。【松本航】

 ◆南野拓実(みなみの・たくみ)1995年(平7)1月16日、大阪・泉佐野市生まれ。C大阪ジュニアユースから同ユースに進んだ10年に興国高へ入学。12年に2種登録でJリーグデビュー。13年にC大阪入りし、14年W杯ブラジル大会では予備登録メンバー。J1通算62試合7得点。15年1月にザルツブルクへ移籍し、同年10月の国際親善試合イラン戦で日本代表デビュー。174センチ、67キロ。