リオデジャネイロ・パラリンピックの自転車女子タンデム個人ロードトライアル(視覚障害)で、35歳の鹿沼由理恵が銀メダルを獲得した。スタート数分前にギアが最も重い段から変えられないトラブルが発覚。ギアチェンジができない困難なレースを、脚力と持久力、不屈の精神力でペダルを踏み続けた。

 タンデムは2人乗り自転車で競う。目の見えるパイロットが前でハンドルを握ってかじを切り、後方に乗る視覚障がい者がひたすらペダルをこぎ続ける。鹿沼のパイロットを務めたのはプロの女子競輪選手の26歳の田中まい。鹿沼のメダルにかける強い思いに共感し、5月から5カ月間、競輪を休んで二人三脚で練習してきた。そんなパートナーの献身が、鹿沼の気力を支えていたのだろう。

 田中は競輪学校の教官から勧められ、13年に鹿沼のパイロットを引き受けた。しかし、二足わらじは簡単にいかなかった。本業で勝てず、昨年4月に競輪に専念する。その1カ月後、別のパイロットと練習していた鹿沼が落車して大けがを負った。負い目を感じた田中は、再び鹿沼に連絡を入れたという。代表に内定した5月、田中は「お金で買えない経験ができる」とうれしそうだった。

 パラリンピックは障がい者だけの大会ではない。陸上のトラック競技やマラソンに出場する視覚障害の選手は、ひもで手をつないで一緒に走るガイドランナーの情報を聞きながら走る。ガイドランナーは日頃から一緒に練習して、選手の力量や特徴を把握していなければ務まらない。障がい者と健常者が力を合わせて、同じ夢を追う。これもパラリンピックの魅力だ。

 視覚障がい者の競技、ブラインドサッカーは健常者がGKを務め、最後尾からフィールドプレーヤーに指示を出す。昨年10月、日本代表はアジア予選で敗れてリオの出場権を逃した。試合後、号泣するGKの肩を抱いてなぐさめる選手たちを見て、胸が熱くなった。障がい者が健常者を励ましている。あの美しい光景を忘れることができない。【五輪・パラリンピック準備委員 首藤正徳】