シンクロナイズドスイミングの混合デュエット・テクニカルルーティン(TR)予選で安部篤史(32=トゥリトネス水泳部)と足立夢実(26=国士舘シンクロク)は81・8724点の5位で決勝に進んだ。昨年11月に国際水泳連盟(FINA)は男女混合種目の導入を決定。2月に史上初のシンクロ男子代表に選ばれた安部は歴史的な1歩を踏んだが、演技後は納得できず、悔し涙を流した。

 さまざまな思いが絡み合った。演技後、安部は男子の第一人者で36歳のビル・メイ(米国)にハグされると、涙が止まらなくなった。81・8724の5位発進。動きが乱れるなど、納得できる演技はできなかった。「もうちょっといけた」と悔しさの一方で、日本男子として初の大舞台を踏めたことに込み上げるものもあった。

 3月から女子だけだった世界に飛び込んだ。帝京大1年の夏、映画「ウォーターボーイズ」を見て、シンクロに興味を持つ。水中パフォーマンス集団「トゥリトネス」で10年以上の経験を積んだが、競技はまったくの別物だった。ペアを組む足立は日本の元エース。スピードは追いつかず、リズムも合わなかった。

 女子とは違い、脂肪は少なく、浮力は劣る。花牟礼コーチからは「下手、遅い」と常に叱られた。TRのテーマは「オペラ座の怪人」。花牟礼コーチからは「怪人ではなく、疲労した人」とばっさり評された。1日10時間の練習。両脚の付け根は炎症が起き、右肩、左足首も痛みが発症した。過酷な日々の支えは、パイオニアとしての責任感だった。

 大好きだったシンクロが男子にも開かれた。「男子のシンクロを、より身近に、競技人口を増やしていく義務がある」との強い思いが消えることはなかった。3位イタリアとは約3・5点差。得点は決勝に持ち越さないが、差をつけられた。「まだやれることはたくさんある」。TRのメダル獲得は簡単ではないが、パイオニアとしての誇りを胸に、26日の決勝に挑む。【田口潤】