<レスリング:世界選手権>◇4日目◇15日◇トルコ・イスタンブール

 女子55キロ級で2大会連続五輪金メダリストの吉田沙保里(28=ALSOK)が五輪を含む世界大会で無傷の54連勝、11連覇を達成した。決勝でアテネ五輪銀、北京五輪銅メダルのバービーク(カナダ)に2-1で競り勝った。世界選手権の連覇も9に伸ばし、自身が持つ女子の最多連続記録を更新した。来年のロンドン五輪で日本女子初の3連覇を果たせば「人類最強の男」と評されるアレクサンドル・カレリン氏が持つ世界大会12連覇に並ぶ。

 やはり、誰よりも強かった。指定席は、誰にも譲らなかった。決勝のアテネ五輪2位、北京五輪3位のバービーク(カナダ)も、相手ではなかった。「今年優勝しなければ、ロンドン五輪の金メダルは見えない」と臨んだ大会で9連覇。五輪を含む世界大会は無傷54連勝で11連覇まで伸ばした。吉田には、女王の座が似合っていた。

 初戦2回戦の圧勝で勢いに乗った。地元トルコの大声援を受ける世界ジュニア女王を相手に、第1ピリオド1分15秒すぎ、両肩をマットにつけてフォールを奪った。続く3回戦もフォール勝ち。準々決勝と準決勝はフォールこそ逃したが、タイミングや入る角度を変えた変幻自在の高速タックルで、何度も相手をマットにはわせた。1人だけ、まるで次元が違った。

 女王のさらなる進化の証しだった。今年、珍しく何度もマットをはう姿があった。相手は女子ではない。屈強な男子大学生と「本気」のスパーリングを行ってきた。北京五輪を懸けた4年前は6試合を戦い「腕がぱんぱんになった」。ノーマークの選手に第3Pまで苦戦した。それが4カ月後の119連勝でのストップにつながった。「同じ轍(てつ)は2度と踏まない。スピードや瞬発力、女子にはない力強さを体感しておけば、外国人も怖くない」。マットをなめることで、心身を鍛え抜いた。

 02年からほとんど変わらない女子代表でただ1人、すべての世界大会に出場してきた。あと19日で29歳。体力の衰えは「感じていますよ」と笑う。だが、愛知の拠点では高校生や大学生に交ざって朝練習も行い、うさぎ跳びにおんぶ走り、縄登りをこなす。そこに妥協はない。「最初からともに頑張ることで、体力維持ができている。若い子には負けたくないですから」。

 そんな努力が吉兆を導いた。大会前、昨年から原因不明の痛みに悩まされていた右手首が突然、治った。腕と90度の角度で手のひらをつけられず、腕立て伏せもできなかった。もともと中学3年に骨折した左手首は握力が20キロ。だが、支える右手も40キロにまで落ちた。それが「倒立もできるまでになった。寝て起きたら治っていた」。心配事が減った。視界は良好だった。

 目標とする「人類最強の男」カレリン氏の世界大会12連覇まで、あと1つに迫った。12月の全日本選手権で勝てば五輪が決まる。なでしこジャパンMF沢穂希と「ロンドンで一緒に金メダルを取ろう」と約束した来年8月9日の本番まで、あと328日。日本女子初の五輪3連覇はもう、その手の中に入っている。

 ◆吉田沙保里(よしだ・さおり)1982年(昭57)10月5日、三重・津市生まれ。3歳のときに父の指導でレスリングを始める。中京女大(現至学館大)-ALSOK。アテネ、北京両五輪の女子55キロ級金メダリスト。08年1月の女子W杯団体戦で負けるまで、01年から119連勝をマークした。家族は両親と兄2人。父栄勝さんはレスリング全日本選手権優勝経験を持ち、現代表コーチ。156センチ。血液型O。