<大相撲初場所>◇12日目◇23日◇東京・両国国技館

 大関琴奨菊(29=佐渡ケ嶽)が、大関初挑戦となった西前頭10枚目の遠藤(23)を寄り切り、力の差を見せつけた。右大胸筋断裂が完治せず満身創痍(そうい)の場所で勝ち越し。12年九州場所以来2度目のかど番を脱出した。

 意地の勝利だった。幕内3場所目でざんばらの新星に負けられない。負傷した右大胸筋にはテープがグルグル巻き。動く左腕が生命線だった。「角度も良く、いい踏み込みだったね」。立ち合いで得意の左差し。右は相手の腕を抱えて、一気にがぶり寄った。大きく息を吐いた。土俵下で白鵬に力水をつけるまでの約40秒。目を閉じて、白星をかみしめた。

 琴奨菊

 先場所の苦しい思い。場所に入っても体が動かないもどかしさ。負のスパイラルになって、いらんことまで考えてしまう。それを断ち切れた大きな一番だった。あ~良かった。

 場所前、関取衆との稽古はできなかった。それでも、やれる限りのことはすべてやった。「ケガしたからこそ、克服できたこともある。学んだこともある。相手ではなく楽しみながら自分の相撲。楽しみたいね」。そう言い聞かせて土俵に上がっていた。

 九州場所2日目に負傷したが、協会指定の病院は担当医が手術中だった。タクシーの運転手が紹介してくれたのが、プロ野球ソフトバンクや五輪でソフトボール金メダル獲得の上野由岐子投手を担当した肩治療の名医だった。「出会いは大きかった」。閉所恐怖症でMRI(磁気共鳴画像装置)に入れず、初日は断念。呼吸困難になるほどで、翌日からは精神安定剤を飲んで打ち勝った。「気持ちも強くなったと思う」。それ以降の薬がラムネだったことは後から聞かされた。

 3日を残しての勝ち越し。大関の座を死守した。土俵上では相手への大歓声。「勝負には情けはないし、こういう雰囲気でつかみ取った1勝は本当に大きいと思う」。心がまた一回り大きくなった。春場所以降の目標は、勝ち越しでなく初優勝だ。【鎌田直秀】