第1クールを取材する時、私はできるだけ情報を集めて準備をして、イメージを持ってキャンプ地を訪れるようにしている。その中で、宮崎キャンプで目的がクリアになっていたのが巨人だった。甲斐を見よう、甲斐の意識を感じようと、強風吹き荒れるサンマリンのブルペンに入った。
左腕横川と向き合った111球だった。まず横川の投球内容はベース板から大きく外れず、真っすぐ、スライダー、ツーシーム、カーブ、フォークをよく制球していた。まだ高低にはバラツキはあったが、順調な出来だった。トライしているチェンジアップも、可能性が持てる内容だった。
その中で、甲斐がピッチングを受けながら、右側に手帳を広げ、気づいたことをその場で書き込んでいた。ピッチング中に5、6回は膝をつきながらメモをしている。ピッチング後にメモを取る捕手は見たことがあるが、その場ですぐにメモをする姿に驚かされた。
メインスタジアムに移動する間際、ほんの短く言葉を交わした。「ものすごいプレッシャーです。でも、ソフトバンクにいたら、こうしてメモを取りながら受けることもなかったと思います。大変です、しかし、楽しいです。後で振り返った時に、この判断が良かったと思えるようにやります」。爽やかな笑顔を見せてくれた。
私も捕手だったので、よく分かる。甲斐は新人の時と同じく、一から全投手を知る作業にフル回転で取り組む。新人ならば全投手を把握することが目的になるが、甲斐にはそれに加えてチームを勝たせるという重責が加わる。
巨人はFAで捕手としての一選手を獲得したのだが、日本代表の甲斐ともなれば、その意味が深く、重くなる。若手を勝てる投手に導く役割、つまりコーチ兼任の意味合いも兼ねる。だから、本人も重圧を感じているのだ。
甲斐はその作業を楽しいと表現したが、おそらく横川も甲斐に受けてもらいうれしかったはずだ。言ってみれば、自分のチームに谷繁さん、古田さんがやってくるようなものだ。
開幕すれば、楽しいと言ってられなくなるだろう。しかし、この春のプロセスが、つらいシーズンを耐え抜く、貴重な時間になることを、甲斐は良く理解していると感じた。(日刊スポーツ評論家)




