宜野座キャンプで13日に行われた「“愛の無事着”デス」に「なるほど」と思った。恒例のいわゆるデスノック。指揮官・矢野燿大がノックバットを握った。相手は三塁の定位置を争う大山悠輔と佐藤輝明だ。

佐藤輝が合計233本、佐藤輝より15分長く受けた大山は258本。結果を受けて矢野はこう言った。「(佐藤輝は)振る力はついてきたけど守備とか継続してやることは苦手で大山との違いは歴然。こういうことを経験しながら本当のいい打者、強い選手になってもらえたら」。

佐藤輝も「しんどかった。(大山さんは)すごい体力があるなと改めて思いました」と先輩の力を実感した様子。お疲れさま…と思ったけれど冷静に考えると「ちょっと待てよ」という気もしてきた。

最近、阪神に限らず現場で指導に当たる人間と話すと決まって「難しい」と言う。選手に少しきつく言ったところ球団に呼び出されて「あまり厳しく言うな」と注意される場合もあるらしい。選手の気持ちを尊重しながら、しっかりと指導する。なかなか大変だ。

前任者・金本知憲に比べてソフト路線の矢野だが球団の考えも反映されているようだ。阪神だけでなく、どの球団でもある程度そういう面はあるのだろう。

若い選手の気質は変わっているし、時代も違う。昔のようなスパルタ方式は通用しない。以前から言われていることだが、そもそも人格を無視するような指導が理不尽なのは野球の世界も一般社会も同じだ。パワハラは許されない。

その上で「だからこそ」と思う部分はある。冒頭の話、佐藤輝は大山に“挑戦”する立場のはず。その佐藤輝が先にノックを終える結果になった。「それでいいのか」という気は、正直、する。だけど無理して故障も困る。期待の選手、その兼ね合いが難しい。矢野の談話にその感じがよく出ていた。

矢野も若い頃は闘将・星野仙一にしごかれた。ひょっとして「オフにもっと鍛えてこんか」という気持ちだったかもしれないが自分が指導されてきたのと同じようにはできない。

その難しさは選手側にとっては違う意味のシビアさにつながる。「今は自分で自分を鍛えないといけない時代」。そう言ったのはイチローだ。要は佐藤輝が何を感じたか、だ。どこまで自分を追い込めるか。キャンプも中盤だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)