熱狂の日本シリーズを終えたソフトバンク大竹耕太郎投手は、いただいたオフを利用して故郷の熊本に帰省した。日本一の記念グッズと勝利の報告を手土産に、お世話になった人たちへ感謝の気持ちを伝えるためだ。

2日後には、秋季キャンプの準備をしなくてはいけない忙しさだった。でもどうしても会っておきたい人がいた。高校時代にコンディショニングを担当してくれ、現在は熊本市の鍼灸治療院で働く小山征二トレーナーだ。

付き合いは長い。熊本・済々黌で高2夏、高3春に甲子園に出場する前からの付き合いで、もう8年にもなる。速い球を求めて筋トレをしようとした自分に「自重トレーニングで十分」と助言をくれたトレーナーだ。

「速い球はいらないよ。『柔よく剛を制す』って言葉を知ってるかい? 大竹君の魅力は柔らかさ、しなやかさ。球速表示と競争しちゃだめだ」。

そういって、長所を伸ばし、背中を押してくれた人。早大時代にチームメートから「なんで抑えられるの?」と言われた、球速にこだわらない今のスタイルをつくってくれた一人でもある。

「小山さんは自分のいい時も、悪い時も知っていて、調子が上がらなかった大学3、4年のとき、電話やメールで励ましてくれました。こういう人を、僕はこれからも大事にしていきたいので」。日本一を成し遂げても、大竹投手の義理人情は変わらず、ぶれることはなかった。

7月29日に育成から支配下選手に登録されて約3カ月。いろいろなことがあった。CSで投げ、日本シリーズ第2戦でも中継ぎで投げ、濃密な3カ月だった。

「1軍に上がって1番感じたことは『1軍にいると、練習する時間がないな』ということでした」。

もともと練習の虫。練習がしたくて、深夜に寮のウエート場で黙々とスクワットした夜もあった。結果…、失敗。CSファイナルS第3戦、救援で登板し西武外崎選手に2ランを浴びて降板。悔しさから、ふだん人前では見せない涙を見せてしまった。

「あれは、調整ミスりました…。トレーニング系の練習をつめてやったせいですね」。失敗を経験するたびに、得意の自己分析で乗り越えてきた。今シーズンの成績は11試合3勝2敗。防御率3.88。奪三振は36個(48回2/3)。「本当に濃密な3カ月でした」と語る。


■子どもの作文を見て、野球少年だったころの自分を思い出した

通いなれた小山トレーナーの自宅では妻久美さんが腕によりをかけた「チキン南蛮」に舌鼓を打った。特製のタルタルソースがご飯によく合う。高校時代から大竹投手の大好物だ。食べた後は、小山家の奈吾くん、凌平くんとキャッチボールをしてリフレッシュもした。凌平くんが夏休みの作文で「ぼくのともだちのおおたけせんしゅのしあいをみにいきました」と書いているのを見て「俺って友達なのかい!」と笑ってしまったが、子供のころ、自分も夢中でホークスを応援していたなぁと、初心を思い出しスマホで撮影した。張りつめていた緊張感、重圧から解放され、癒しと活力をもらえたひとときになった。


「来シーズンは先発ローテに入って、2ケタ勝ちます」。

意気揚々と小山トレーナーにそう宣言すると「お前は10勝プラスマイナス2の投手だよ」と言われた。大竹投手は「10勝プラスマイナス2!? 目標としては、もうちょっと多く勝ちたいんですけど…(笑)」と苦笑いになったが、すべてを知る小山さんだからこそ、過剰な期待をせず自分にアドバイスしてくれたのだろうな。そう、あとから気づき、言葉を胸に刻んだ。有名になればなるほど、冷静に、等身大の助言をしてくれる人の存在はありがたい。

忙しいオフを楽しみ、大竹投手は再び秋季キャンプという戦いの場へ向かった。やりたいことだらけ、試したいことだらけの意欲を抱えて。自己分析の日々はまだまだ続くが、新しい希望と勇気を乗せて、一歩ずつ、一歩ずつ進んでいく。【樫本ゆき】

大竹投手が画像保存した次男・凌平くんの作文。子どもの目線に学ばされる思いがした
大竹投手が画像保存した次男・凌平くんの作文。子どもの目線に学ばされる思いがした
子どもたちとの会話は癒しであり、小山家は初心を思い出させてくれる場所でもある
子どもたちとの会話は癒しであり、小山家は初心を思い出させてくれる場所でもある