夏の甲子園(8月7日開幕)を目指す青森大会は13日に開幕する。「白球にかける夏」第3回は「下北から甲子園」の目標を掲げる大湊を特集する。昨夏は青森山田、八戸工大一、弘前学院聖愛の強豪私学を倒して準優勝。14日の1回戦で三戸を撃破し、お互い順当に勝ち上がれば、昨夏決勝で敗れた八戸学院光星と17日の2回戦で激突する。地理的ハンディをはねのけ、土壇場で底力を発揮する「下北魂」を胸に、悲願の甲子園初出場を狙う。

 「下北魂」再び-。4月から母校の指揮を執る飛内尚人監督(45)は、脈々と受け継がれていた「遺伝子」を感じ取っていた。「私立の強豪相手にも名前負けせずにやっている。自分が忘れかけていたものを感じさせてくれる」。昨夏準優勝に導いた工藤公治前監督(現青森北)とともにバッテリーを組み89年秋の東北大会8強進出。2人は、「下北から甲子園」を掲げ78年から27年間監督を務めて05年に病死した富岡哲氏(享年49)の愛弟子だ。

 自然と「富岡野球」の原点によりどころを求めていた。今春の県大会初戦で弘前東に両軍合計29安打の大乱戦の末に敗れた後は、畑山球人主将(3年)が全力疾走と声出しの再徹底で結束力向上を狙った。昨夏の光星との決勝で「3番中堅」で先発し0-11と大敗した中から、畑山は一筋の光を見いだしていた。

 畑山 打撃にしろ守備にしろ光星が上だったのは確か。経験や技術の部分で負けていたけど、それ以外で1つでも相手に勝つところ、信じてすがれるところがないと勝てない。野球以外の私生活も試合に出る。

 富岡監督はかつて「敵は己」をモットーに選手を鍛え上げていた。ノックで泣く者が出るほどの猛練習だった一方で、野球の取り組み方も厳しく教えた。飛内監督は「富岡監督から技術を教わったことは、ほとんどない。野球を通しての生き方を、野球以外に通じる礼儀やあいさつの大切さ、野球に取り組む姿勢を教わった」と当時を回想した。続けて「全力疾走はチームがまとまるための必要なピース」と信念を口にした。

 6月30日は富岡監督の命日。むつ市内にある墓参りに行くのが夏の出陣式だ。下北半島出身の全部員41人が墓前に優勝を誓った。畑山は「勝って当たり前の私立を倒して、下北から甲子園に出る」と宣言した。己を信じることで不可能を可能にしてきた「下北魂」を背負って、今年も大湊ナインは青森の夏を全力で駆け抜ける。【高橋洋平】

 ◆昨夏の大湊旋風VTR 青森私学4強の内、3つを撃破して準優勝した。4回戦では同年春のセンバツに出場した青森山田と対戦し9回に勝ち越し、3-2で振り切る金星を挙げた。続く八戸工大一との準々決勝は勢いそのまま4-3で快勝、準決勝は弘前学院聖愛を8-4で押し切った。決勝こそ八戸学院光星に0-11で負けたものの、強い相手にこそ燃える「下北魂」で、青森の高校野球史に残る戦いを繰り広げた。

 ◆大湊 1948年(昭23)創立の公立校。総合学科で生徒数は563人(女子368人)。陸上競技部も強豪で、ロンドン五輪男子400メートル障害日本代表の岸本鷹幸はOB。野球部は09年と16年の夏に青森大会準優勝。部員は41人。所在地は青森県むつ市大湊大近川44の84。神卓哉校長。