第96回選抜高校野球大会(3月18日開幕、甲子園)の出場32校を決める選考委員会が行われ、21世紀枠で別海(北海道)の出場が決まった。生乳生産が日本一、人より牛が多い北海道別海町とはどんな町? 全国1741自治体(市町村+東京23区)の97・3%を踏破済みのアマチュア野球担当記者が紹介する。

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北海道の道を走ると、次の街に入る時に「カントリーサイン」がある。別海町は牛のイラストだ。ベタもベタ、そのまんまだ。

町の中心部は内陸にある。行こうと思わないと観光ではなかなか行かない場所かもしれない。町内には看板がたくさん。「ミルクで乾杯!」「牛乳飲んで元気チャージ!」。JAの青年部によるものだ。町内にはたくさんタンクローリーが走っている。だいたい牛乳を運んでいる。

林伸悟外野手(2年)の自宅が営む「林牧場」を午前5時半に訪れた。同じような道が多く、迷った。20分近く遅刻した。ようやくたどり着くと、彼は氷点下の冷気の中を待っていてくれた。ネコも4匹いた。「みんな野良猫だったのを、うちのおばあちゃんが飼い始めたんです」。

「うちの牧場は小さいですよ」と林の父徳人さん(41)は言っていたが、そんなことはなく、乳牛150頭。右も左も前も後ろも牛、牛、牛。10秒に1回くらいはモーと聞こえる。

こういう景色が別海町ではごくごく当たり前なのだろう。人口約1万4000人に対し、町内で暮らす牛の数は11万頭以上。でも牛ばかりじゃない。

札幌ドームでサヨナラ弾を放った中道航太郎主将(2年)はよく朝日を見る。「家が海に近いので、朝日もきれいです。海から出てきて、とてもきれいです」。沿岸の野付(のつけ)地区に住んでいる。

エビのような形の、細長い野付半島。チーム内で宴会部長的な役割でもあるものの「だいたい一発芸が滑る」という中道に「野付半島ポーズを」とリクエストすると、腕を上げて腰をくねってくれた。

ラムサール条約に指定される湿地帯には、野鳥や野生動物がたくさんいる。平たくほぼまっすぐ26キロほど続く道路の北側はオホーツク海、南側は凍った野付湾。どこまでも続く凍結の白さに「氷平線」という言葉も生まれ、冬の旅人たちの人気を集める。

24日に訪れた時には多くのシカに加え、国の天然記念物オジロワシの姿もあった。野付半島からは国後島もはっきりと見える。

別海の校舎から車を走らせると、本土最東端の根室市・納沙布(のさっぷ)岬までも1時間20本ほどで着く。寒さも際立ち、20日朝には氷点下20度近くまで下がったと聞いた。

そんな寒さでも酪農業、漁業、島影隆啓監督(41)のようなコンビニ経営…など早朝3時、4時から起きる人もたくさんいる。必死に働く人々。最近では町へのふるさと納税もかなり増えてきているという。町出身の河崎秋子さんの「ともぐい」が直木賞に選ばれたばかりで、町はさらに勢いづくだろう。

そんな取材を済ませて2泊3日で帰ろうとすると、23日は吹雪で中標津空港からの帰京便が欠航になった。延泊したものの、24日は除雪のためにまた欠航…。町内でたくさんの優しさに接した一方で、冬場は時に移動さえ容易でなくなる現実も突きつけられた。

急きょ、釧路空港まで移動しての帰京を企てた。会社の上司へのお土産はささっと1分で買って(別海町産のチーズ)、集乳農道なる雪積もる一本道をひたすら走る。どこまで行っても別海町から出られない(実はうれしい)。景色も変わらない。「東京23区より広くて、東京都よりは狭いです」という砂田純平野球部長(42)の言葉をしみじみと実感する。厚岸町との町境に行くまで約43キロ、1時間以上もかかり「これぞ北海道!」の車窓を満喫した。

「そんなわけで読者の皆さまもぜひ別海へ!!」

とかキレイにまとめてもいいのだが、個人的には根室の落石岬にも一度は行きたいし、春国岱もいいし、霧多布湿原も好きだし、西武佐藤龍世内野手(27)おすすめの釧路市のそば店もまた行きたいし、標茶町の風景は日本一だと思うし、摩周湖は定期的に行きたいし、知床半島は最高だし。あと、流氷も見たいし。

東京・築地の日刊スポーツ本社で、別海ナインのうれしそうな顔を画面越しに見た。帰ってきたばかり、チーズを配ったばかりなのに、道東旅情がまたかき立てられた。【金子真仁】