「無印」から「日の丸」へ。アマチュア時代も含め、初めて日本代表に選出された広島薮田和樹投手(25)は稲葉ジャパンで先発の一角と期待されている。プロ入りまで実績はほぼゼロだったが、入団3年目の今季急成長。先発の柱となって広島の連覇に貢献し、代表選出まで上り詰めた。「成り上がり」の背景には何があったのか-。

 稲葉ジャパンの初陣を託された薮田は、プロ入りまで完全な「無印」だった。岡山理大付、亜大とケガもあり、公式戦登板は少なかった。亜大では公式戦登板3試合で0勝。それでも潜在能力を評価されて入団した広島で覚醒した。昨年まで2年間で登板22試合、4勝3敗だったが、今季はリーグ2位の15勝をマーク。最高勝率のタイトルを獲得した。

 今季開幕前も1軍の当落線上にいた。実戦に入っても、昨季までのように制球難から崩れる失敗を繰り返した。2軍降格の危機。ノーマークだった右腕は「開き直り」から成り上がった。

 「もうこれ以上(球が)荒れたところは見せられない。ストライクゾーンで勝負する。歩かせるのではなく、ゾーンに投げれば打ち損じもある。開き直れた」

 もともと真っすぐには力がある。多少甘くなっても、凡打やファウルを奪えた。昨季限りで引退の黒田氏の助言もあった。「最初から厳しいところを狙っていたら投球が苦しくなる」。初球はストライクゾーンの2分割。精神的な余裕が気持ちの余裕につながり、カウントを整えられるようになった。制球力も上がった。わずか1年で敗戦処理から勝利の方程式、そして先発へとステップアップ。プロ入り前は無名だった右腕は連覇した広島に欠かせない存在となり、そして日本代表まで上り詰めた。

 試合で投げられる喜び、投手として成長している実感がある。初の代表では16日韓国戦、初陣の先発が有力視される。「(昨季まで)結果は出ていませんでしたが、正直、2020年は目指していた。今回は24歳以下ですけど、年齢制限がなくても当たり前に入る選手になりたい」。ここがゴールではない。急カーブを描いた薮田の成長曲線は、まだまだ先が見えない。【前原淳】