#開幕を待つファンへ。日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(49)と上原浩治氏(44)のぶっちゃけトーク第3弾のテーマは「DH(指名打者)制」。セ・リーグも、パ・リーグのようにDH制を採用すべきなのか、現状のままがよいのか。毎回恒例、ベテラン遊軍の小島信行記者が加わり、白熱したクロストークが繰り広げられました。
◇ ◇ ◇
小島記者 前回(4月1日付紙面)は今季からメジャーで採用される「ワンポイント禁止」や高校野球の「球数制限」について話しました。やはりテーマを絞るといいですね。今回は「DH制」について論じてもらってよろしいでしょうか。
宮本 いいけど、ウエ(上原の愛称)は「DH制」についてどう思っているの? 俺は賛成なんだけど。
上原 ボクも賛成派ですよ。2人とも同じじゃ、盛り上がらないんじゃないですか。
小島 では、こちらでDH派の反対意見を考えますから、容赦なく反論してください。
宮本 この人はへ理屈が多いタイプだから手ごわそうだな。
上原 世の中の文句を言わせたら一流だもんね。
小島 2人に言われたくありませんが…。それでは、始めましょう! 賛成の一番の理由は?
宮本 野球はDH制の方が面白い。ピッチャーに打順が回るイニングは点が入りそうな気がしないでしょ。特に序盤なんて代打は出さないし。
小島 結果はともかく、めったに見られない投手の打席に興味があるファンもいるんじゃないですか?
上原 いるのかもしれないけど、ピッチャーの打撃はメインじゃない。(年俸の)査定だって、バッティングはピッチャーの評価にはつながらないでしょ。
宮本 おっ、さすがウエ。いきなりお金の話を入れてきたな(ニヤニヤ)。
上原 やめてくださいよ。敵は僕じゃないでしょ。
小島 仲間割れは大歓迎です(笑い)。確かに投手の打撃はお金を払って見せるようなものではないかもしれません。ただ、言葉は悪いですが“パフォーマンス”として価値がある。例えば、高校時代にスラッガーだった投手がプロでどういう打撃をするか、とか。東海大仰星(現東海大大阪仰星)時代、「強肩・貧打」の外野手だった上原さんの打撃は見ないでもいいですけど(ニヤニヤ)。
上原 失礼な(笑い)。でも確かにバッティングのいい投手の打席は、見ていても楽しいとこがある。
宮本 おいおい、まだ始まったばかりなのに寝返るなよ(笑い)。確かにそれはあるかもしれないけど、DHで打席に立つのは打撃のスペシャリスト。そういう選手の打撃は、いくら投手で打撃がよくても比べものにならない。投手は打撃練習もそれほどしないしね。プロはお金を払っているファンに見てもらうために、しっかり練習するんですよ。試合展開次第だけど、投手は打席に立っても打つ気がない状況がある。野手なら、どんな時でも打ちにいく。スポーツの醍醐味(だいごみ)は真剣勝負ですよ。
小島 昔、大量リードの終盤の打席でやる気満々で打ちにいった投手が相手ベンチからやじられて、目を真っ赤にしたことがありましたよね。当時、話題にもなりました。ああいうドラマはなくなっちゃう。
宮本 ヤクルト-巨人戦ですよね。覚えてます。後から振り返ってみると面白いけど、そんなドラマは基本的になくていいんですよ。めったにないし。
上原 それに投手に投げるのは嫌だった。抑えて当たり前で、四球なんて出そうもんなら、めちゃくちゃ怒られる。プロ2年目ぐらいかなぁ。勝負に関係ない場面で自分が打席に入ったら、キャッチャーに空振りします、って言ってた。
宮本 ハハハ、でもよくあるよな。間違ってもぶつからないように、ホームベースから遠いところに立っているだけとか。
小島 それでストライクが入らなくなる投手もいます。そこも面白いとこですよ。
宮本 そんなのを面白がるのは、性格が悪い証拠でしょう(笑い)。確かに、打席で一生懸命やる投手は好感が持てるし、何とかしてやろうって気持ちになる。でも、それは味方の投手の場合だなぁ。敵だと嫌。確かに、そういう面白さは認めるけど、本質的な面白さとは違う。例えば9番DHで、7番が出塁すれば8番が送って得点圏で野手との勝負になる。同じ状況で9番投手だと(8番が)送らないことが多い。得点圏に走者を背負って勝負っていうのが、一番の面白さじゃないかな。
上原 DHなら、投手も打席が回ってきての交代がない。マウンドを降りる時は、打たれたり、球数がいってたりする時。点差が開いた時なんかに交代することはあるけど、基本的に投手としての能力が、交代の判断基準になる。終盤に1点負けてたりしても、代打での交代はない。ファンの人も、そういう投手戦は見応えあるんじゃないかな。日本では(所属が)ジャイアンツだけでDHなしだったけど、メジャーではDHでもやった。DHの方がやりやすい。打線に投手がいると、1アウト取れる楽さはあるけど、それを差し引いてもDHの方がいい。
小島 でもその一方で、采配の駆け引きが生まれる。DH制なしの場合、そこが一番の面白さになるじゃないですか? 監督の手腕の見せどころですよ。
宮本 そこは否定しない。やっている方は悩みどころでも、それが面白さにつながりますもんね。結局、DH制の有無で意見が分かれるのは、そこでしょう。でも、どちらを取るかって選択なら、DH制で力の勝負を追求した方がいい。
上原 投手の立場だと、調子がいい時に代えられる心配もないし、打席とか余計な心配をしなくていい。“采配の妙”とか、チームの駆け引きで犠牲になるのは、できれば避けたい。
宮本 巨人の原監督がセ・リーグもDH制の導入を提案しているけど気持ちは分かる。だって、ここ数年の交流戦や日本シリーズを見てもセはパに勝てない。野球のレベルを上げるなら、力勝負になりやすいDH制の方が絶対にいい。セの出身だけに、特にそういう気持ちが強くなる。小中高校生も、DHにした方が底辺が広がるんじゃない? 守るのが下手で、走るのが遅くても、DHがあればレギュラーになれる。打つ以外がダメな選手も、野球を続ける枠が増える。徹底的にバッティングだけをやって、ド肝を抜くような打者が出てくるかもしれない。
小島 でも大谷のような二刀流は出てこないかもしれませんよ。
上原 大谷は別格でしょう。普通は、プロのレベルで投手と野手の両方はできない。今までの野球の歴史を見ても、プロで両方をやれる選手なんていないんだから。それを基準にしたら始まらないでしょう。それに大谷も、今の二刀流がいいのか、何年か先を見てみないと分からないでしょ。確かに夢はあるけど、終わってみれば、どっちも大した成績を残せないかもしれないし。それに、打撃のいい投手がいたらDHにしなければいいだけでしょ。WBCも五輪もDH制を採用している。
小島 では、セもパも交互にDH制にするのが一番いいのかもしれませんね。そうすれば“采配の妙”も見られるし、チームも同じように強くなる。
宮本 おお、それがいいね。DHを採用するかしないかの選択なら採用だけど、交互にやれば均等になる。
小島 でも交互にやると、毎年チーム編成が難しくなりますね。打つだけの選手の選手寿命が延びて、お金もかかりそう。
上原 トレードとかオフの補強とかが活性化して面白くなるんじゃない? お金がかかる心配は、ファンには関係ないし、選手寿命が延びるのもいいこと。
宮本 ファンあってのプロ野球。そこを一番に考えないと。でも小島さん、そういえばセの試合に来て「DHじゃないとつまらない」とか言ってませんでした?
小島 (小さくうなずく)
上原 思ってもいないことで、よく突っ込めますね。
宮本 やっぱり文句の達人だな、この人は(笑い)。
◇ ◇ ◇
◆DH制度 MLBのア・リーグが73年に導入。ナ・リーグ人気に負けられないと、アスレチックスのフィンリー・オーナーが発案し、他のオーナーも賛成。観客は前年から200万人増え、打率、本塁打もアップと効果を発揮した。日本では2年後の75年、人気回復を狙ったパ・リーグが採用。打率は前年から8厘、本塁打も23本増え、投手も代打を出されることがなくなり完投数が197→302と1・5倍となった。パは昨年で導入から45年となったが、セは野球は9人でするものと、1度も採用には至っていない。
DHで特に活躍した選手が門田博光(ダイエー)。79年に右足アキレス腱(けん)を断裂し、復帰して以降はDH専門に。全試合DHで出場した88年は、40歳で44本塁打を放ってMVP。DHで通算1376試合、370本塁打はともに歴代最多。DHでベストナイン4度も最多と、守備の負担のないDHのおかげで44歳までプレーした。