生粋の野球人がニューイヤー駅伝で覇を競うチームの強化に一役買っている。社会人野球のホンダ、ホンダ鈴鹿、ホンダ熊本でGMを務める甲元訓(こうもと・さとる)さん(49)は元日レースを控える陸上競技部のランナーに期待する。

「いい形で次の世代へとバトンタッチし、毎年、期待の若い選手が出てきてもらいたいですね。若手とベテランが力を発揮し、チーム全員で勝利してほしい」

甲元さんはかつて、本田技研鈴鹿のエース投手として都市対抗初優勝に貢献した。鈴鹿で監督としても指導し、19年からGMとして3チームを統括する。さらにホンダの陸上競技、サッカー、ラグビー、女子ソフトボールも合わせて7チームをサポートする役割を託されている。ホンダで初めてのポジションだという。

「距離を踏む」。駅伝やマラソンを走る土台となる脚力を鍛える、陸上長距離なら当たり前の言葉も、野球界ではなじみがない。甲元さんは言う。「陸上は練習のスタイルがまったく違います。朝早くから練習、昼から練習と1日2回、走ります。それぞれの競技特性、文化があります」。他のスポーツに敬意を込める。大会など現場に足を運び、指導者と対話を重ね、現状を知ろうと努めている。

「他の競技の人間があれこれと言い出すのはよくないですよね。距離を保ちながら、信頼関係を築かなければいけません」

自ら軸足を置く野球3チームの改革がモデルケースになる。「3つの野球部を持つメリットをもっと生かさないといけない。もう少し、横串機能を持たせることで効率的にできます」。GMとして全体を俯瞰(ふかん)する。3チームの長所や弱点を見極めた上でチーム間で適材適所のメンバー入れ替えを敢行。また、甲元さんがスカウト活動を中心的に行うシステムに変更した。今年12月の都市対抗に3チームすべてが出場し、ホンダが11年ぶりに優勝した。熊本は17年ぶりのベスト8、鈴鹿も初戦突破。着実に成果が出ている。

都市対抗優勝のノウハウは、男子マラソン前日本記録保持者の設楽悠太らを擁する陸上競技部も共有している。19年のニューイヤー駅伝で24位に沈むと会社主導でフロント部門を強化。4月、小川智さんが新監督に就き、前監督の大沢陽祐さんが副部長として戦力編成に注力する体制になった。「現場とフロントを切り分けることで、現場が指導や育成に集中できるクラブを作ろうということ」。ポイントの1つは経験豊富な大沢さんが中心となって新戦力のスカウトを担うことだ。

「陸上では外国人選手の獲得も大きな戦力補強になります。監督が自ら(新戦力の)採用活動をするのとしないのは全然(負担が)違います。採用活動を任せる分、現場での指導や育成に集中できますから」

甲元さんが野球部で新戦力の採用活動を行うように、陸上競技部も監督が現場指導に専念し、スカウト部門が分離して全力を注げる態勢を敷いた。この春はルーキーで伊藤達彦が加入。20年箱根駅伝2区で東京国際大のエースとして東洋大・相沢晃(現旭化成、東京五輪男子1万メートル代表)と抜きつ抜かれつの激闘を演じ、区間2位と好走した逸材の獲得に成功した。チームの過去最高は2位。20年の3位から、新春は5連覇を狙う旭化成などに挑む。

甲元さんは「お互いのスポーツが刺激し合える関係でありたいです」と言う。企業スポーツも時代の荒波にさらされる。新型コロナウイルスの感染拡大で本社が打撃を受け、チームを統廃合する動きも出始めている。そんななか、三菱重工など競技を横断して連携で強化を図るスタイルも新たな潮流になりつつある。その旗手である甲元さんは続ける。

「ホンダの企業スポーツは従業員や地域の活性化、一体感の醸成を目的として活動しています。勝つことが目的ではなく、あくまで勝利することで活性化につながることが大切。そのためにも競技の枠組みを超えて、スポーツの新たな価値を創造し、アスリートのキャリアを生かせる社会を広げていくことで、スポーツの魅力、素晴らしさを届けていきたい。価値観が多様化するなかで、7つのチームが1つになった『チームホンダ』で、日本一の企業スポーツチームを目指していきます」

野球が他のスポーツと手を組んで前に進む。新しいスポーツのあり方を見た。【酒井俊作】