阪神秋山拓巳投手(30)が3回降板の屈辱をバネに、宿敵を封じた。プロ初めて中4日の間隔で先発し、降雨コールドとなる7回途中まで巨人打線を1失点で7勝目。首位攻防戦の初戦を制し、2位巨人に3・5ゲーム差。きょう10日も勝てば、13年ぶりとなる前半戦の首位ターンが決まる。

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激しい雨に、水浸しのグラウンド。コールド目前の光景にも、秋山は一点だけを見つめていた。「次の打者以降の攻め方を冷静になって考えて、とにかく集中力を切らないようにと思っていました」。中断したのは、7回無死二、三塁のピンチ。頭にあったのは打者を抑えることだけだった。

首位攻防戦の初戦という重要な一戦で、プロ初の中4日で先発マウンドに立った。ウル虎ユニホームの虎のように、気迫で立ち向かった。「とにかく意地を見せたろう、と思って」。先制点をもらった直後の4回。坂本、丸を変化球で打ち取ると、4番岡本和には直球をズバッと決めて見逃し三振。持ち味の制球力に直球のキレがさえた。降雨コールドながら7回途中6安打1失点。堂々の7勝目だった。

前回4日広島戦(マツダスタジアム)は、3回2失点で降板。「意地見せようぜ」。福原投手コーチからハッパを掛けられ、そのことだけを考えた。体全体を使う意識が強いあまり、腕を強く振れていなかったことに気づいた。「左肩の壁を作ることと、上体をしっかり止めて腕を走らすということを思いついた。自分の中の引き出しとして、また1つ増やしていけたかな」。悔しさをバネにした4日間が肥やしにもなった。

一戦にかける思いは、まさかのハプニングも生んだ。5回1死一塁の攻撃。打席に立つはずの秋山が一向に現れない。その舞台裏は、ヒーローインタビューで糸原から明かされた。「秋山さん、自分の打席忘れてるくらい集中してたんで、なんとかしっかり守ってやろうと思って」。隣で聞いていた秋山は苦笑い。「あの…、言わずに墓場まで持っていくつもりだったんですけど…。5回なんとか抑えて、もう気持ちが6回にいって、攻撃のこと忘れちゃってました」。慌てて打席に立った中でも、初球で犠打に成功。熱い右腕を中心にナインは一丸だった。

矢野監督も「真っすぐのスピード、キレがすごくありましたし。何よりも気持ちがね。すごく向かっているなという、そういう感じがしました」と思いを感じ取った。雨中の熱戦で連勝し、10日も勝てば前半戦首位ターンが決定。猛虎が泥臭く、必死に白星を追い求める。【磯綾乃】

◆秋山の前回登板VTR 7月4日広島戦(マツダスタジアム)、3点リードの3回裏。先発秋山は菊池涼の適時打と小園の犠飛で1点差に詰め寄られた。4回表2死二、三塁の好機に打順が回ると、阪神ベンチは秋山を諦め代打に原口を起用。手袋をはめて打席に立つ準備をしていた秋山は、複雑な表情でベンチに下がった。原口は右飛に終わり、チャンスを生かせず。試合は5回に救援陣がつかまり、3-4で逆転負けを喫した。

▼阪神が10日巨人戦に勝つと、今季の前半戦首位ターンが決まる。11日から球宴前最終戦の14日まで、巨人は3戦全勝でも、44勝31敗10分けで勝率5割8分7厘。阪神は同時期に4戦全敗しても、48勝33敗3分けで5割9分3厘となり、巨人を上回るため。阪神が前半戦を首位で折り返せば、08年以来13年ぶり。