年末の新聞で小さな記事を見かけて嬉しくなった。「来季栗山シート」という9行の雑感(下記)。西武の栗山巧選手が年間指定席2席を購入して、埼玉県内の施設に寄付する予定だという。年俸が2000万円(推定)に上がり「僕の買える範囲で」と思い立ったそうだ。

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栗山が来季、西武ドームに「栗山シート」を設け、身体障害者らを招待するプランを明かした。来季の年俸は2000万円(推定)とあって「僕の買える範囲内で」と年間指定席2席を購入し、埼玉県内の施設などに寄付する予定だ。この日は所沢市内でクリスマスイベントに参加。サンタクロースの衣装を着て約200人のファンの前でトークショーなどを行い「子供のころに戻れたようで楽しかった」と笑顔で話した。

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「こいつはプロ向き。プロに行っても成功する」。栗山が育英高1年の時、練習場へ行ったらミスター・タイガース藤村富美男さんの次男で同高監督の藤村雅美さんに言われた。「へえ」と生返事をしたが、実は何をもって「プロ向き」というのかがよく分からなかったのだ。気が強い? 体が強い? マイペース? 素質の問題? 何なのか。

昨季、栗山は84試合に出場した。1番を任せられることも多く打率は・297。右翼手で、イチローに似たプレースタイルのプロ選手に育った。「やっぱりプロ向きだったのか」1人で納得していた。

だが、彼が本当に「プロ向き」だった、と痛感したのはこの栗山シートの9行の記事によってだった。年俸2000万円は我々にとっては高給だが、プロ選手にとっては平均(3743万円)の半分程度だ。にもかかわらず、彼は億を稼ぐ一流選手(でもやらない人も多いが…)のような「社会奉仕」を始めたのだ。

栗山がハンディのある人に贈る2つの席はプロ野球選手としての質の高い志。しかもそれは、自らの成績向上の意欲をなおかきたててくれるはずなのだ。彼は無意識のうちにその相乗効果さえ知っているのだろうか。藤村監督の「プロ向き」の意味がやっと理解できた。(井関真編集委員=ABCテレビ「おはようコール」コメンテーター)