日本ハム稲葉篤紀ゼネラルマネジャー(GM=49)が、BIGBOSSとの二人三脚で歩み出した新生日本ハムが描く将来像を明かした。今夏の東京五輪で侍ジャパンを金メダルに導いた大仕事の次は、新庄剛志監督(49)とのタッグで挑むチーム変革。2人が目指す“カッコいいチーム”とは-。【取材・構成=木下大輔】

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稲葉GMは沖縄・国頭でBIGBOSSからの、とある“誘い”を断っていた。新庄監督の秋季キャンプ視察2日目、早朝の出来事だ。「『あっちゃん、一緒に出ようよ』『あっちゃん、いいから出ようよ』って。いやいや、ビッグボスだけの方が絵になりますから」。真っ赤なジャージー姿で登場した翌日の話。注目度が増す球場入りは、別々でとお願いした。

この“お断り”には、稲葉GMのスタンスが詰まっていた。「チームを変えていくのは監督です。監督のやりたい野球を、とにかくサポートしたい。だから僕は全然、表に出るつもりもない。監督やコーチ、選手らにいろんな意見を聞いて、裏で、うまくチームを動かす潤滑油になっていきたい」。表舞台は新庄監督に任せ、自らは後方支援に徹することを決めている。

役割を明確にした上で、表裏一体でチーム変革を進める。ともに野球観は同じ。「やっぱ僕、守りが大事だと思っている。守備から攻撃に。ジャパンでもずっと言い続けてきました。それは、ビッグボスも同じ考えです」。2人で話す新たなチーム構想も、守備から話題が広がる。「やっぱ守備が大事だよね、と。だから『あの選手、どこか守れないの?』『足速い?』『肩強い?』『じゃあ、この選手ここ守れない?』とか。ビッグボスは固定観念を持たずに、いろんな可能性を考えている」。

目指すチーム像も、同じだ。新庄監督は「カッコいいチームにしたい」と言った。稲葉GMも「ファイターズってカッコいいよねと言われるように」と同調する。もちろん、顔のカッコよさではない。求めるのは「全力でやるということ」。稲葉GMは現役時代から「全力疾走」をモットーにしてきた。「ビッグボスもそうですよ。センターまで、僕と(森本)稀哲と3人で同じくらい全力で走っていましたから」と振り返り、語気を強めて続けた。「カッコいいってみんな勘違いしている部分がある。投ゴロを走らない…それは照れ。一塁まで全力で走れよ、と。アウトになると分かっていても全力で走ったら、見ている人はどう思う? 攻守交代もそう。少年野球じゃないですけど、原点」。

17年から4年間、侍ジャパンの監督として12球団を見る中で、近年の日本ハムに感じる物足りない部分でもある。「子どもたちがファイターズを目指したいなって思えるチームに今、ちょっとなってないんじゃないかなと。僕が今、12球団でどこを目指せって言うならソフトバンク。練習の仕方、シートノック、試合に対する思いも全部が必死。そういうチームになったら強いチームになっていくんじゃないか」。

BIGBOSS効果は、3日間という短期間でも着実に浸透。「(若手の)目の色が少し違っているように感じる。つらい練習だけではなく、ある程度のユーモアがありながら、ちゃんとした意図がある練習をしっかりやろうとしている」。9日の練習中には新庄監督とバリー・ボンズを例に打撃論が盛り上がり、選手にもアドバイス。その過程で2人による“実演”を提案した。「ビッグボスは『あまり肩が良くないから。ごめん、あっちゃん。打てないわ~』って」と断念したが、稲葉GMは打撃ケージに入り快音を響かせた。「これだけやっていなくても、どれだけ飛ぶか。見ていて感じてくれればいいかな」と、ヘッドを利かせて遠くに飛ばすという技術を、選手にお手本として示した。

新庄BIGBOSSに怒られた、現役時代を思い出す。「よく言われましたよ。『あっちゃん、めっちゃチャンスで回ってくるじゃん。いいなぁ。代わってよ』って。全然代わりますよって言ったら『そこがダメなんだよ、あっちゃん』と。そんな感じは今も全然、変わらない」。強烈なインフルエンサーでもあるBIGBOSSとともにチームを、野球界を変えていく。

○…侍ジャパンの監督として過ごした4年間の経験もチームに落とし込む。GMながらジャージー姿で熱心に指導しながら、トッププレーヤーを預かった中で得た知見を生かしてアドバイスを送った。「例えば、丸選手は打つポイントが左足の前と言っていた。聞いたことがなかった。へぇ~と思った。結果を残す人はいろんな理論がある。こういう選手はこう考えていたよとか、そういうことは言える」と、選手の技術向上へ惜しみなく助言を送っていくつもりだ。

<秋季キャンプ視察中の新庄BIGBOSS流>

★車の屋根に立つ グラウンドに1台のワゴン車を招き入れて屋根によじ登り、バットを水平に構えた。遠投を低く、強く投げるための独特な練習法。バット(棒)よりも低い送球を求めた

★賞品付きベースランニングリレー 野手を2チームに分け、競わせることで、各選手の走力をチェック。勝利チームに小型マッサージ器をプレゼントした

★お色直し 午前中に上下真っ赤なジャージーを着用したと思えば、午後は上下黒の装いに。「そのくらいね、人に見られるっていう意識をしてるんで」。選手へのメッセージを含んでいた

★グラウンド整備は率先して 選手の練習時間確保のため。「僕たちがやればいい。心を込めてイレギュラーしないようにやっただけ。もう普通のこと」。阪神時代の恩師・故島野育夫氏の教え

★近距離ブルペン 捕手を本塁より1メートルほど手前に構えさせ、ショートピッチングを指示。「外野からカットに投げる延長が本塁だった。一緒」

★積極的ボディータッチ 清宮の脇腹をつまみ「ちょっとデブじゃね? ちょっと、やせない?」と減量指示。体重減で「打球が飛ばなくなるのが怖い」と不安に思う清宮に「今もそんなに飛んでないよ」

★SNSで助言 遠く離れた千葉・鎌ケ谷で練習中の7年目・清水へ、インスタグラムを通じて「僕は調子が悪くなった時こそスタメンから外されないように、守備で1点を防ぐ ホームラン1本も 補殺1個も同じ打点1 その気持ちで調子が上がって来るのをただただ待って耐え抜いていた 野球はキャッチャーのサインから始まる」と公開アドバイス

★シャッフルノック 捕手、内野手、外野手を入れ替え、本来とは別のポジションでノックを受けさせた。「相手の気持ちが分かれば、愛情を持って送球が出来る」