<オープン戦:阪神2-3巨人>◇9日◇甲子園

 支配下登録も目の前だ!

 昨年11月に育成で再契約した阪神伊藤和雄投手(24)が、自慢の直球でG斬りを果たした。2回を投げ、3四死球を与えながらも無失点。真っすぐ主体で5奪三振。12年の初先発以来となる1軍マウンドで、最大の武器の直球をアピールした。シーズン開幕前にも、支配下登録返り咲きの可能性が高まってきた。

 11年ドラフト4位右腕は、悔しさを力に変えた。寒風吹く甲子園のマウンドで、力いっぱい腕を振った。6回2死満塁で迎えた高橋由、7回2死二塁で迎えた片岡。いずれのピンチも真っすぐしか投げなかった。高橋由は4球で空振り三振に斬った。片岡は二ゴロ。2回を無失点で終えると、笑みがこぼれた。

 スコアボードに「0」を、スコアブックには「K」を並べている。キャンプの実戦からこれで、16イニング連続無失点。この日も2イニングで5個の三振を奪い、奪三振数は26。この日、最速146キロを計測した力強い直球を武器に、三振の山を築いている。投じた38球のうち、変化球は4球だけ。3四死球と荒れていたが、直球で空振りを8度も奪う力投を、和田監督も「真っすぐで空振り取れるのが彼の持ち味だから」と評価した。

 昨年、直球の球速は140キロを下回ることもあった。「フォームを安定させた。1球1球同じフォームで投げられるように取り組んだ」(伊藤和)。かかと重心で、体が前に突っ込んだ状態になり、ボールに力が伝わっていなかった。久保2軍投手コーチが「遠い距離を投げさせた。遠くに投げるにはスピードが必要になってくる」と話すなど、球速アップを試みたことが、今年に入って成果となって表れてきた。球速は安定。最速で147キロまで上げてきた。

 「正直、悔しい思いをした。絶対に見返すという気持ちでやってきた」

 昨秋に待っていたのは、育成契約。3桁番号を背負い、3年目を迎えた。だが、力強い投球で明るい未来を切り開きつつある。現在、支配下選手枠は4つ空いている。支配下登録は7月末までだが、開幕を待たずして支配下に上がる可能性も出てきた。松田が右肘違和感を抱えているため、中継ぎの秘密兵器となるケースすら考えられる。

 「結果を欲しがらずに、腕を振っていきたい」

 1軍のマウンドに立つため、はい上がる。【宮崎えり子】<伊藤和ここまでの歩み>

 ◆1年目

 1軍キャンプに同期の伊藤隼と参加。しかし右肩の痛みを訴え離脱。「右肩関節周囲炎」と診断され、リハビリ生活が始まった。4月末に実戦復帰。順調に経験を積んで、12年10月3日、中日戦(ナゴヤドーム)でプロ初先発、初登板。4回7安打4失点(自責点3)で黒星。

 ◆2年目

 2年連続で1軍キャンプに参加。WBC侍ジャパンの強化試合(13年2月26日)では、2回を完全投球で抑えセーブがついた。その後、オープン戦で成績を残せず2軍生活へ。2軍公式戦12試合に登板し、防御率11・57。1軍登板なし。

 ◆育成契約

 13年11月に育成で再契約。背番号も「17」から「117」に変更。嶌村GM補佐は「大学出身の投手で、ファームでの防御率は正直物足りない。力はこんなもんじゃない。来季の奮起に期待して、もう1回はい上がってきてほしい」。

 ◆3年目

 高知・安芸組キャンプからスタート。実戦では安芸組投手陣の中で最多の4試合10イニングを投げた。平田2軍監督は「すばらしい」と太鼓判。3月5日の教育リーグ・ソフトバンク戦(雁の巣)では、1軍首脳陣が視察する中、5者連続で空振り三振を奪った。この投球後、1軍合流が決まった。