脊髄損傷の大けがから3年ぶりに関取に返り咲いた西十両14枚目の炎鵬(31=伊勢ケ浜)が、白星発進した。角界関係者ですら、想像できなかった復活劇でもある。

炎鵬が宮城野部屋に入門した2017年から近くで見守ってきた間垣親方(36=元幕内石浦)は、2度も引退を勧めたことがある。炎鵬が十両だった3年前、ケガの状態を聞き「引退も考えた方がいいんじゃないか」と話した。2度目は、復帰途上の炎鵬が幕下で負け越した時。炎鵬の将来を案じた。「自分は結婚して子どもができて、子どもはこんな感情にさせてくれるのだと気づき、相撲より大切なものだと分かりました。友哉(炎鵬)もこれから結婚するかもしれないし、これからの生活が長い。そういう気持ちで言いました」。

炎鵬は耳を傾けてくれたが、いずれも後日になって現役続行を伝えてきた。「めちゃくちゃ頑固です。稽古はやれと言わなくても、やりすぎる。純粋に相撲が好きなんだと感じます」。 夏場所の番付編成会議があった3月25日。炎鵬の再十両が決まった。協会発表からほどなく、炎鵬から電話がかかってきた。後日、祝いの席をもうけてねぎらった。しみじみと言われた。「入門した時、こんな未来になるとは思ってなかったっすよ」。宮城野部屋が一時的にせよ閉鎖となるとは、入門当時の師匠がいなくなるとは、自身が日常生活を脅かされるケガを負うとは、想像していなかった。人生は分からない。間垣親方は「だからこそ、こんなこともある。これからも頑張ろうと言いました」。

炎鵬は十両復帰でも、歩みを止めていない。あれほどの大けがだったにもかかわらず、稽古場で頭からかましていく。先日はついに伊勢ケ浜親方(元横綱照ノ富士)が「炎鵬、無理すんな」と言った。常に猛稽古を課す師匠が、弟子にブレーキをかけた。この時、間垣親方は「初めて聞きました」と驚いた。

今も稽古のたびに、本場所での取組のたびにヒヤヒヤするという。「人として本当にすごいです。自分は(炎鵬を)止めた側として、可能性をつぶしかけた。そのくらいひどいケガだったんです」。間垣親方は今や、炎鵬の可能性にかけている。「これからは無理するなとは言わない。幕内に戻って欲しいです。(可能性は)全然あります」。復活劇は、想像を超える域に達してきた。【佐々木一郎】