「TBSドキュメンタリー映画祭」が18日から東京・渋谷のユーロライブで開催される。

報道番組では放送しきれなかった取材映像を掘り起こし、追加取材を加えた22本が上映される。単発のドキュメンタリー映画では追い切れない長期間の取材、素材の潤沢さが厚みとなり、それぞれの制作者の思いも重なって見応えのある作品がそろっている。

アフリカ・コンゴの献身的な医師にスポットを当てた「ムクウェゲ 『女性たちにとって世界最悪の場所』で闘う医師」を監督した同局の立山芽以子プロデューサーに話を聞いた。

取材を始めたのは5年前だ。

「NGO(非政府組織)の友人から持ち掛けられたのですが、アフリカでの取材機会が多かったにもかかわらず、お恥ずかしいことにムクウェゲさんの存在を知りませんでした。知れば知るほど彼の活動は驚くことばかりでした」

デニ・ムクウェゲ医師(66)はコンゴ東部に病院を構え、レイプ被害に遭った女性たちの治療に当たっている。この一帯は乱立する武装勢力によって40万人以上の女性が被害に遭ったと言われ、ムクウェゲ医師がこれまでに救った女性は5万人以上に上る。

「アフリカにはどうしても遠い国々という印象があって、日本で報道される機会は決して多くないですが、世界のいろんな矛盾が極端に現れる大陸だと思います。気候問題、政治の腐敗、先進国と発展途上国の構造的問題…それがすべて凝縮されて、ある意味見えやすくなっている」

ムクウェゲ医師は魅力にあふれた人だった。

「対面するだけで温かさが伝わってくる。自分のことはほとんど話さないのですが、使命感のようなものがひしひしと伝わってくるんです」

最初のインタビューから2年後にノーベル平和賞を受賞したことから、取材は一気に進んだ。

「日本人はノーベル賞が好きじゃないですか。最初の取材では『ムクウェゲって誰?』だった社内の空気が変わった。私自身、ムクウェゲさんの人柄に突き動かされるようにコンゴの現地取材を進めました。2年前に取材した先行者利益みたいなものもありました。ノーベル賞受賞後に取材を申し込んだBBCは10分限定みたいな感じでしたけど、ムクウェゲさんはこちらのことを覚えていてくれて、私たちにはインタビュー2時間とか。手術にも同席させてもらいました。実は私たちはBBC以上の素材を持っているんですよ」

被害に遭った女性たちの生々しい話を聞き、ついには1人の加害男性の証言にたどり着く。自身も半ば被害者のように語るこの男性は、武装勢力のリーダーに薬物を投与され、強制的にレイプに駆り立てられたことを告白する。性犯罪の枠に止まらず、住民支配のための意図的なレイプの背景が浮き彫りになる。

そもそも武装勢力乱立の原因となったのが、この地域に大量のレアメタル(希少金属)が埋蔵していることだという。豊かな資源がなぜ、悲惨な状況を生み出すのか。加害者がいとも簡単に釈放されてしまう司法、ひいては政権そのものの腐敗という構造的問題が浮き彫りになる。

ムクウェゲ医師はなぜ、戦い続けなければならないのか。これまでは分単位で断片的に報じられてきたこの問題の深層、背景が70分の終盤でミステリーの謎解きのようにひもとかれる。

「私の場合は幸運と言うべきか、これまで(放送コードによる)制約を感じたことは無いんです。今回の証言内容や映像はテレビでも問題なく放送できるものばかりです。ただ、せいぜい分単位という時間的制約があったので、それを取っ払ったら、どう伝えられるか。分かりやすく構成できるか。それから、テレビは数百万人単位に見ていただいているわけですが、本当に伝わっているのか、どこか砂漠に水をまいているような感覚があるんです。今回はお金を払った人たちが劇場でしっかり見てくださるわけです。そこに期待と不安がありますね」

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

◆立山芽以子(たてやま・めいこ)1973年(昭48)長野生まれ。97年TBS入社。政治部、社会部などを経て、現在「news23」番組プロデューサー。

「ムクウェゲ 『女性たちにとって世界最悪の場所』で闘う医師」の1場面 (C)TBSテレビ
「ムクウェゲ 『女性たちにとって世界最悪の場所』で闘う医師」の1場面 (C)TBSテレビ
「ムクウェゲ 『女性たちにとって世界最悪の場所』で闘う医師」の現地撮影 (C)TBSテレビ
「ムクウェゲ 『女性たちにとって世界最悪の場所』で闘う医師」の現地撮影 (C)TBSテレビ