水墨画の指導をした小林東雲氏によると、横浜流星(25)の描く線は「ズシッと重たかった。線が強いというか、独特の風格がある」という。

3年前のドラマ「初めて恋をした日に読む話」のピンク髪以来、比較的クセの強い役が多かった横浜が、新作「線は、僕を描く」(10月21日公開)では、水墨画の世界に魅せられる真っすぐな青年を演じている。東雲氏は「線を見るとある程度その人の内面がわかる」というから、本来の持ち味を生かした作品と言えるのかも知れない。

不幸な出来事をきっかけに無力感にとらわれていた大学生の霜介(横浜)は、バイト先の絵画展でたまたま目にした1枚の水墨画に引き込まれる。繊細な筆運びから目が離せなくなる。それをきっかけに巨匠・湖山(三浦友和)の弟子となった霜介は、一番弟子の湖峰(江口洋介)や湖山の孫でもある千瑛(清原果耶)ら先輩と出会い、筆先から生み出される「線」のみで描く水墨画の世界に生きる道を見いだしていく。

バイト先での水墨画との出会いが印象的だ。心ならずも霜介のほおを涙がつたう。眉、目、口元…。横浜の表情が伝える情報量は多く、一瞬でこの作品の行く末を想像させる。

優しさの中に大家然とした雰囲気を醸す三浦。久々「ひとつ屋根の下」(97年)のあんちゃんのように揺るぎなく明るい江口。そして清原の千瑛は強いようで、霜介に似てナイーブだ。登場人物それぞれにキャストの持ち味が重なって、生き生きと見えてくる。

舐上裕将氏の原作は20年の本屋大賞3位である。が、水墨画は決して親しみやすいジャンルとは言えないだろう。一見地味なモノクロ水墨世界を映像化したのは、「ちはやふる」(16年)で競技かるたをアクティブに描いた小泉徳宏監督のチームだ。筆は躍動し、時に絵が浮き上がるように見える。「ちはやふる」同様に、ハウツー的な要素もさりげなく折り込みながら、マニアックな世界のエンタメ化に取り組んでいる。

気持ちのいいエンディングの後、思わずスマホで「水墨画展示会」を検索していた。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)