90年に日本公開された「ローズ家の戦争」は、マイケル・ダグラス、キャスリーン・ターナーというキャラの濃い配役で夫婦の修羅場を描いた。果ては銃撃やカークラッシュに至るブラックな描写が記憶に残っている。

英国出身のベネディクトカンバーバッチとオリヴィア・コールマンを主演に迎え、あの怪作を現代によみがえらせたのが「ローズ家~崖っぷちの夫婦~」(24日公開)だ。

ロンドンのレストランで運命的に出会った建築家のテオ(カンバーバッチ)とシェフのアイビー(コールマン)は手に手をとって米カリフォルニア州の未開発地域メンドシーノに渡る。

それから10年、双子の姉弟をもうけた2人は幸せに暮らしている。テオは建築家として成功し、デザインを手がけた地元の海洋博物館のオープニングを控えている。専業主婦として子育てに奮闘したアイビーの夢をかなえようと、シーフード・レストランのための物件もプレゼントした。

ところが、規格外の嵐がメンドシーノを襲い、華麗なマストのデザインが災いしてテオの海洋博物館はあえなく倒壊してしまう。時を同じくして閑古鳥が鳴いていたアイビーのレストランが、嵐を逃れて来店した著名インフルエンサーの絶賛によって一気に人気店となる。

夫妻の立場逆転は、ともに胸に秘めていたうっぷんを吐き出すきっかけとなり、やがて地獄のふたが開く。

子育て担当が入れ替わったとたんに、自由人だった双子の姉弟がマッスル志向のスポーツ青年に変身するくだりも面白い。

「スキャンダル」(19年)のジェイ・ローチが監督し、「哀れなるものたち」(23年)のトニー・マクナマラが脚本を担当。ゴリゴリにハリウッド的だったダグラス=ターナー版に比べて英国的洗練の風味を醸し、随所にひねりを効かせて、シニカルな味わいが増している。

「銃規制に賛成」という友人から護身用拳銃をプレゼントされるエピソードが、米国銃社会のどうしようもなさを改めて印象づけ、博物館倒壊そのものよりもそれを動画に撮られてSNSにアップされることを恐れるテオの様子が、行きすぎたキャンセルカルチャーを風刺する。

アレルギーを持つアイビーが味見をした後に、手慣れた様子でテオがエピペンを打ってあげる様子が序盤に挿入されていて、この夫婦の実は「クレイジーな一面」を印象づけている。破天荒な終盤への巧みな布石の打ち方にローチ監督の手腕がにじんでいる。

背景にも隙がない。アカデミー賞常連のスタッフが手がけた建築や料理はどれにも本物感がある。メンドシーノの友人たちも、それぞれに個性が立っていて夫婦の周囲はにぎやかだ。

35年前の怪作を今作る意味と意義がしっかり伝わってきた。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)