昨年は主演男優賞にノミネートされていたウィル・スミスが、プレゼンテーターとして登壇したクリス・ロックのジョークに激高してステージに乱入し、平手打ちする事件が起きたアカデミー賞でしたが、今年は大きなハプニングもなく、「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」(以下、エブエブ)の圧勝で幕を下ろしました。

ミシェル・ヨーがアジア人として初めて主演女優賞を受賞するなど、作品賞や監督賞を含む7冠でアジア旋風を巻き起こしました。危機管理チームの活躍と3度目の司会となったジミー・キンメルの手腕で、つつがなく終わった今年のアカデミー賞授賞式のハイライトを紹介します。

アカデミー賞で作品賞に選ばれ喜ぶ「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の関係者。計7部門を獲得した(ロイター)
アカデミー賞で作品賞に選ばれ喜ぶ「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の関係者。計7部門を獲得した(ロイター)

レッドカーペットはシャンパンカラーにお色直し

授賞式前に各賞の候補者やプレゼンテーターが一堂に会するレッドカーペットが、今年は「レッド」から「シャンパン」色に変更されました。代名詞にもなっているレッドカーペットの色が変更になるのは、1961年以来実に62年ぶりのこと。キンメルは「決して(赤い)血が流れることはないという自信の表れ」と、昨年のビンタ事件に引っ掛けユーモアたっぷりに紹介していましたが、今年もたくさんのスターたちがシャンパンカーペットで豪華なドレス姿を披露しました。

一方、当日は晴れたものの前日まで雨が降っていた影響もあり、スターたちがシャンパンカーペットに到着する前にすでにカーペットの汚れが目立っていたとの声もあり、クリーニングチームが稼働するなど大忙しだったようです。

キンメルはパラシュートで登場、ビンタ事件もネタに

授賞式冒頭で、コロナ禍で苦しむ映画産業を救う空前の大ヒットとなった「トップガン マーヴェリック」へのトリビュートとして米軍機2機が会場の上空を飛行し、キンメルはパラシュートでステージに登場。オープニングモノローグでは、「安全だと感じて欲しいので、厳格なルールを決めました。授賞式の最中に、もしもこの中の誰かが暴力行為を行ったら主演男優賞と19分間の受賞スピーチをする機会を贈ります」とビンタ事件をネタに会場を盛り上げました。

さらに、もしも起きてしまったら「昨年と同じように行動して下さい。座ったまま何もしないで。むしろ加害者にハグしても良いですよ」と続け、もしこのジョークに怒って暴れたい人がいても簡単ではないとコメント。「クリード」シリーズでボクサーを演じるマイケル・B・ジョーダンやスパイダーマンを演じたアンドリュー・ガーフィールド、「エブエブ」でカンフーを披露したヨーらの名前をあげ、自分のところにたどり着く前に「彼らを乗り越えないといけませんから」とスターを巻き込んだジョークで笑いを誘いました。

アカデミー賞 司会のジミー・キンメル(ロイター)
アカデミー賞 司会のジミー・キンメル(ロイター)

レディー・ガガがサプライズ登場で、すっぴんパフォーマンス

「トップガン マーヴェリック」の主題歌「Hold My Hand」で歌曲賞にノミネートされていたレディー・ガガは、ハーレイ・クインを演じる「ジョーカー」(19年)の続編を撮影中のためスケジュール調整ができず、パフォーマンスを辞退したと伝えられていましたが、授賞式にサプライズ登場。レッドカーペットでのクラシックな装いから一転してTシャツにダメージデニムというカジュアルな衣装にノーメイクでパワフルなパフォーマンスを行い、会場からは大きな拍手が沸き起こりました。

黒のTシャツにダメージデニムというカジュアルな衣装にノーメークでステージに登場し熱唱するレディー・ガガ(AP)
黒のTシャツにダメージデニムというカジュアルな衣装にノーメークでステージに登場し熱唱するレディー・ガガ(AP)

インド映画「RRR」の「ナートゥ・ナートゥ」が歌曲賞を受賞、パフォーマンスも大盛り上がり

「RRR」に登場する劇中のダンスバトル曲「Naatu Naatu(ナートゥ・ナートゥ)」が、レディー・ガガや「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」の主題歌「Lift Me Up」を歌うリアーナを差し置いて歌曲賞を受賞し、映画ファンを歓喜させました。授賞式では劇中のシーンが再現され、歌唱するラーフル・シプリガンジとカーラ・バイラヴァ、約20人のダンサーたちが生パフォーマンス。高速のナートゥダンスを披露し、会場を大興奮の渦に巻き込みました。

トム・クルーズは授賞式を欠席、「トップガン マーヴェリック」は作品賞受賞ならず

英国で「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART TWO」を撮影中のトム・クルーズは、この日の授賞式を欠席。作品賞を含む6部門にノミネートされていた同作で、プロデューサーとして初のオスカー受賞も期待されていましたが、「音響賞」の1冠に終わりました。一方、授賞式開始時には会場上空を米海軍の戦闘機2機が飛行し、お祝いムードに華を添えました。

トム・クルーズ(2022年5月撮影)
トム・クルーズ(2022年5月撮影)

助演男優賞のキー・ホイ・クァン感動的なスピーチ、「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」で共演したハリソン・フォードと再会ハグも

「エブエブ」でアジア系として史上2人目となる助演男優賞に輝いたキー・ホイ・クァンは、「私の旅はボートで始まりました」とスピーチを始め、ベトナム戦争から逃れるため難民キャンプで過ごした子ども時代を振り返り、「なぜか、ここハリウッドでオスカーの舞台にたどり着いた」とコメント。映画の中でしか起こらないと思っていたことが自分の身に起きたことは信じられないと話し、「アメリカドリームです!」と受賞を喜び、会場ではもらい泣きするセレブの姿も。

そんなクァンは、トリとなった作品賞の発表ではプレゼンテーターを務めたハリソン・フォードとハグで感動の再会を果たしたことでも話題に。子役として「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」(84年)に出演していたクァンは、「エブエブ」の名前が読み上げられるとフォードの元に真っ先に駆け寄り、抱き合って受賞を喜ぶ姿は感動を呼びました。

アカデミー賞 助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァン(ロイター)
アカデミー賞 助演男優賞を受賞したキー・ホイ・クァン(ロイター)

「エブエブ」主要部門をほぼ独占、ヨーは有色人種として史上2人目の主演女優賞受賞の快挙

最多10部門11ノミネートで今年の賞レースをリードしてきた「エブエブ」は、下馬評通り作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、ジェイミー・リー・カーティスの助演女優賞、脚本賞と主要部門をほぼほぼ独占する7冠を達成。マレーシア出身のヨーは、有色人種としては「モンスターズ・ボール」(02年)で初の主演女優賞に輝いたハル・ベリー以来21年ぶり史上2人目の受賞を果たしました。「これを見ている、私と同じ見た目をした子どもたちへ、これは希望の道しるべ。夢は叶うという証拠。決してあきらめないで」とスピーチ。ハリウッドにアジア旋風を巻き起こし、コロナ禍で偏見や差別に苦しんだアジア系移民たちに勇気と感動を与えました。

アカデミー賞授賞式で主演女優賞に輝き、喜ぶミシェル・ヨー(ロイター)
アカデミー賞授賞式で主演女優賞に輝き、喜ぶミシェル・ヨー(ロイター)

今年もアフターパーティーで宮崎牛、オスカー像片手に祝杯

受賞者やプレゼンテーターらゲストたちは、授賞式が終わると会場のドルビー劇場に隣接するオベーション・ハリウッドの最上階にあるグランド・ボールルームに移動し、毎年恒例の公式アフターパーティー「ガバナーズ・ボール」に出席します。今年も会場ではアカデミー公式シェフの異名を持つ著名シェフ、ウルフギャング・パック氏が腕を振るった35種類の料理とデザートが振る舞われ、「エブエブ」のメンバーや主演男優賞に輝いた「ザ・ホエール」のブレンダン・フレイザー、「フェイブルマンズ」でノミネートされていたスティーブン・スピルバーグ監督やミシェル・ウィリアムズらの姿があり、シャンパンやワインを片手に互いの健闘をたたえ合っていました。

宮崎牛を前に笑顔で取材に応じる“アカデミー公式シェフ”ウルフギャング・パック氏(右)
宮崎牛を前に笑顔で取材に応じる“アカデミー公式シェフ”ウルフギャング・パック氏(右)

緊張の授賞式から解放されたスターたちは、昨年末から続いた長き受賞シーズンの終わりを共に祝い、美食と美酒で深夜まで続くアフターパーティーの始まりを楽しんでいました。約1500人が招待された今年のパーティーでは、6年連続で宮崎牛が提供され、スターたちもとろけるステーキを楽しんだことでしょう。パック氏がガバナーズ・ボールのシェフを務めるのは今年で29年目。来年は記念すべき30周年となりますが、早くも「30周年を宮崎牛でお祝いしたい」とインタビューで明かしており、来年も会場でオスカー受賞者らゲストをもてなし、共に祝杯をあげることでしょう。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)