若手女形の中村梅枝(31)中村児太郎(24)が2日初日の東京・歌舞伎座「十二月大歌舞伎」(26日まで)夜の部で、「阿古屋」に初挑戦する。「阿古屋」は琴、三味線、胡弓の三曲を演奏しながら、演技で微細な心情の表現を求められる女形の大役。かつては6代目中村歌右衛門の当たり役とされ、その没後は、坂東玉三郎だけが演じてきた。

 玉三郎は年齢的なこともあって、近年は自らが演じてきた大役を若手に継承している。10月の片岡仁左衛門の「助六」でも、いつもは務める相手役の揚巻を中村七之助に譲り、助六の母満江に回っていた。今回の2人の初挑戦も、玉三郎は「自分で演じてみせてあげられて、かつ(演技を)見てあげられるときに受け取ってもらいたいと思って、今回上演することを決めました」と言う。直々の指名だが、きっかけは玉三郎が「阿古屋」を演じた3年前にさかのぼる。

その時、梅枝は玉三郎に揚げ幕に呼ばれ、「阿古屋」の衣装がどうなっているかを教えてもらったという。「僕にもやらせたいと考えているのかと思いました」と振り返る。それまでの梅枝は「阿古屋」は、自分とは無縁の演目と思っていた。一方の児太郎は毎日25日間も「阿古屋」を見続けた。「感動して、千秋落の前の日に『やりたいです』と言ったんです」。祖父7代目中村芝翫、父中村福助も演じたことはないが、6代目歌右衛門は親せきにあたり、「成駒屋」として、いつかはやりたいと思っていたという。しかし、それはずっと先の目標だった。

2人は琴、三味線、胡弓の稽古を始め、昨年、玉三郎の前で演奏する機会があった。それを見た玉三郎から「今度、『阿古屋』をやるのよ」と言われ、昨年12月から本格的な稽古が始まった。楽屋に楽器を持ち込み、地方公演でも稽古を欠かさなかった。梅枝は「自分が演じることになるとは思わなかった。ボロボロですが、役の重みを感じ、恥じないように演じたい」、児太郎も「今までにない緊張感と恐怖心があります。稽古で打ちのめされ、あり得ない汗をかいています。1つ1つのことをしっかりやるしかない」。

2人が阿古屋を演じる時、玉三郎は岩永役で出演する。舞台上から2人の初挑戦を見守るが、梅枝は「いらっしゃった方がいい」、児太郎も「出ていただけるのはうれしい」と話す。玉三郎も初役の時は6代目歌右衛門の指導を受けた。芸の継承について玉三郎は「稽古をすれば、阿古屋を演じられるチャンスがあると思ってもらうことが大事。そうしないと幅が広がらなくなってしまう。どの役もそうですが、誰々でなければ演じられないという固定観念はないほうがいいのかもしれません」。確かな芸のバトンタッチが、400年も続く歌舞伎を支えている。

【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

「阿古屋」に挑む中村児太郎(撮影岡本隆史氏)
「阿古屋」に挑む中村児太郎(撮影岡本隆史氏)