松竹の「こども歌舞伎スクール寺子屋」の生徒たちによる成果披露公演「贋作桃太郎 百桃(もももも)かたり」が8月26、27日に上演された。おなじみの昔話「桃太郎」をもとにした新作舞踊劇で、鬼退治に出掛けた桃太郎、いいなずけの百桃姫、退治された鬼たちが化けた百合姫や偽桃太郎らが登場し、なかなか面白い舞台だった。

何よりも感心したのは、子供たちのせりふ、所作が歌舞伎になっていたことだった。見えを切り、派手な立ち回りも見せ、最後には華やかに踊る。歌舞伎音楽に柝(き)の音や付け打ちも加わり、40分の上演時間もあっという間だった。脚本は8月納涼歌舞伎の人気演目「東海道中膝栗毛」を書いている戸部和久氏が担当し、演出・振り付けは日本舞踊藤間流宗家の藤間勘十郎と本格的なものだった。これを例えば、堀越勸玄、尾上丑之助、中村勘太郎ら御曹司が総出演で、歌舞伎座の舞台でやれば、大人気になるだろうと思った。

「寺子屋」は松竹が子役養成などを目的に14年に開校した。梅(基礎コース)竹(発展コース)松(前進コース)に分かれ、それぞれ期間は1年。最初は浴衣の着方に礼儀作法、呼吸法などから歌舞伎子役の演技や日本舞踊の基礎を学び、2年目になると、具体的演目に沿ったせりふや演技の本格的な稽古を行う。4歳から小学6年までが対象だったが、卒業後も学びたいという生徒も多く、17年には中学部門を新設した。

歌舞伎の舞台に立つ子役は、これまでは歌舞伎俳優の御曹司のほか、児童劇団所属の子どもをオーディションで選んで演技を教え、舞台に立たせてきた。しかし、寺子屋の生徒たちが育ってきており、今年7月までに約60人が子役として歌舞伎の舞台に立つなど、歌舞伎興行を支えている。歌舞伎では女性が舞台に立つことは出来ないが、子役に限っては女の子でも立っている。「百桃かたり」でも桃太郎を演じたのは女の子だった。

「百桃かたり」の出演者20人は寺子屋内のオーディションで選ばれた精鋭ばかりで、その中の何人かは9月の歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」にも出演している。1期生の一人は昨年春、一般家庭出身者でもある片岡愛之助の部屋子となり、「片岡愛三朗」を名乗って、歌舞伎俳優として歌舞伎座などに出演している。寺子屋出身者が子役だけでなく、歌舞伎俳優として歌舞伎界の一翼を担う日も近いかもしれません。【林尚之】