芝居の世界では「子役と動物にはかなわない」という言葉がある。これに「ロボット」も付け加えたくなった。3日に始まった劇団四季の新作オリジナル・ミュージカル「ロボット・イン・ザ・ガーデン」を見た直後の感想だった。

劇団四季にとって、「ミュージカル南十字星」以来、16年ぶりの一般向け新作オリジナルミュージカルは、英国の作家デボラ・インストールの同名小説をミュージカル化したもの。アンドロイドが人間に代わって仕事をする近未来を舞台に、心に傷を抱えた男ベンが壊れかけのロボットのタングを修理するために世界を旅する中で、自らの再生とタングの成長が描かれている。脚本・作詞は長田育恵氏、演出は小山ゆうな氏が担当した。

男女の俳優2人で操るタングが何ともかわいらしく、目が離せない。粗大ごみで庭先に捨てられた旧型ロボットのタング。四角い胴体に四角い頭、そして短足の姿は不格好だが、それがかえって愛嬌(あいきょう)を増している。設定は3歳児ぐらいのようだが、世界的パペットデザイナーのトビー・オリエ氏によるタングは、原作で描かれたタングを見事に立体化している。よちよちと歩き、歌うだけでなく、喜怒哀楽もちょっとしたしぐさや、カメラのレンズをイメージした瞳の動きで表現され、いとおしくなる。

両親を事故で失ったことから心に深い傷を負い、引きこもりに近い状態になったベンが、旅先でのさまざまな人との出会いで、もう1度人生と向き合っていこうとするけれど、そこでもタングがひと役も二役もかかわっている。「こころ」を持ったタングの姿が、かたくなだったベンの心を解きほぐし、「心と心の結び付き」を深めていく。コロナ禍で何ごとにもギスギスした世の中にあって、心が温まる舞台になっていた。

長田氏、小山氏ともに劇団四季公演には初参加だった。長田氏の脚本は、原作が持つ世界観を巧みに2時間半に凝縮し、小山氏の演出も、出演者が何役も演じながら舞台装置の移動も行うなど、総力戦の活気ある舞台をみせた。初日を終えて、劇団四季の吉田智譽樹社長は「3年越しのプロジェクトで、後はお客さんに任せるしかないけれど、カーテンコールの温かい拍手に、いいスタートを切れたと思う」と手ごたえを口にした。

「ミュージカル李香蘭」「夢から醒めた夢」などの劇団四季のオリジナルミュージカルは、カリスマ演出家だった故浅利慶太さんを中心に作られてきた。今回は、劇団四季のスタッフ、キャスト、そして、外部のクリエーターたちとの共同作業だった。今も新たなオリジナルミュージカル制作の準備を進めているという。「人生はすばらしく、生きるに値する」という数々の四季作品の根底に流れるメッセージは不変だけれど、劇団四季は次世代の新しい道に向けて大きな1歩を踏み出した。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)