俳優の角野卓造(73)が文学座の劇団代表に就任した。文学座は1937年に創立され、日本の演劇界を牽引してきた老舗劇団で、俳優座、民藝とともに新劇の「三大劇団」と言われてきた。劇団代表は文学座の「顔」とも言える存在で、1997年に亡くなるまで大女優の杉村春子さんが長く務め、2016年からは俳優の江守徹(78)が就任していた。

今回は江守の退任に伴い、今年1月に選挙が行われた。座員による投票の結果、角野がもっとも多くの票を集め、3月の劇団総会で正式に承認された。

角野と言えば、長寿ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」で泉ピン子演じる五月の夫で、ラーメン店「幸楽」の主人の勇を長く務め、近年はハリセンボン近藤春菜とそっくりなことから、春菜の鉄板ネタ「角野卓造じゃねえよ!」が生まれ、そのネタのおかげで若い人の間でも知名度が上がっている。今年1月公開の映画「コンフィデンスマンJP英雄編」にも出演しているが、実は6年前から舞台出演はない。一過性の虚血性脳貧血の発作があり、断腸の思いで舞台に立つことを断念していた。そのため、今回の代表就任にはためらいもあったという。

劇団総会のあいさつでも「舞台に立たない俳優が劇団代表になることについては、心苦しい思いもあります」と複雑な胸中を明かした。その一方で、71年に入団し、つかこうへいさんの代表作「熱海殺人事件」が73年に文学座で初演された際には熊田留吉刑事を演じたのをはじめ、数々の舞台で活躍してきた。2008年には紫綬褒章も受けた。半世紀も在団している劇団には感謝の思いが強く「この劇団で育ててもらい、杉村先生をはじめ大勢の先輩のおかげでたくさんの芝居ができました。本当にご恩があります。このご恩を次の世代へ、若い人に送っていきたいなと思っております」。

劇団代表には、劇団としての芸術的・演劇的な指針を示すこと、経営においては長期的な視野に立って適切な指導性が発揮されること、そして文学座の名誉を守ることが期待されているという。ちなみに民藝は奈良岡朋子(92)、俳優座は岩崎加根子(89)が劇団代表を務めている。コロナ禍の影響で多くの劇団は厳しい状況に置かれている。その中で、代表・角野はどう文学座をリードしていくのか。その手腕に期待したいと思います。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)