新作が最も期待される1人、クリストファー・ノーラン監督。「ダークナイト」「インターステラー」「ダンケルク」など、ジャンルを問わず観客を驚かせてきた同監督の最新作は、時間だ。時間の逆行が可能になった未来からやってきた敵と戦い、第3次世界大戦を防ぐべく任務に就く主人公を描いた。

始まって早々、オペラハウスで起こるテロの場面から、鼓動がマックスになるような緊張感。テロが本物なのか偽装なのか? 敵と味方は? 疑問が次々に湧くのだが、それを上回る情報量にのみ込まれていく。まばたき厳禁! なんてコピーのついた作品があるが、そんなもんじゃない。映像と音、展開されるルールを理解して頭をフル稼働させないと、あっという間に作品に置いていかれる。

世界を救うために犠牲をいとわないというTENET=信条を持つ主人公。複雑に見える作品だが、この核心を忘れなければずいぶんすっきり見られる。メインのキャラクターは分かりやすく細かい伏線がどんどん回収されるのも気持ちいい。シェークスピア作品や古風な作品が似合うケネス・ブラナーがこれ以上ない悪っぷり。

【小林千穂】(このコラムの更新は毎週日曜日です)