長谷川博己が演じる大学教授は、理屈っぽくてちょっと威張っているが、水恐怖症で泳げないことにコンプレックスを抱いている。彼を指導する水泳コーチが綾瀬はるかで、理論も指導方法も完璧だが、こちらは陸に上がると人が変わったように足元が危うくなる。

こう書けば、誰もがビッグネームの顔合わせによるライトなラブコメディーを想像する。幕開けはそんな空気が漂う。が、2人が抱えるそれぞれのトラウマが明かされるにつれて物語はどんどん深くなる。なかなか進歩しないその泳力とシンクロするように、実は教授は元妻と交際中のシングルマザーとの間でのたうつような生活を送っている。

そもそも、なぜ42歳にもなって水泳教室に通い始めたのか。一方のコーチはなぜそこまで真っすぐに水泳に向き合っているのか。「舟を編む」(13年)の脚本を担当した渡辺謙作監督は、いきさつを巧みに折り込み、幕開けの想像を気持ちいいほどに裏切っていく。

実際の泳力は役柄とは正反対という。得意な長谷川は溺れ方を追求。苦手だった綾瀬は持ち前の運動神経で短時間でものにした。水中の自然な動きに2人の懐の深さを改めて実感した。【相原斎】

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