社会の埋もれた問題を丁寧に掘り起こしたり、複雑な事件の真相に迫ったり、テレビドキュメンタリーは、ニュースだけでは伝えきれない実情をすくい取ってきました。在阪各局も深夜や早朝にドキュメンタリー番組を放送しています。制作には時間もコストもかかりますが、そこには制作者の熱い思いがあります。

 大阪・MBSテレビのドキュメンタリーシリーズ「映像」。80年から月に1本、ドキュメンタリー番組を制作し、事件、教育、貧困など多様なテーマを取り上げてきました。放送は450回を超えます。

 昨年放送された「映像’17 沖縄 さまよう木霊~基地反対運動の素顔」は第72回文化庁芸術祭優秀賞、「映像’17 宮武外骨と安倍政権 ~権力の嗤い方~」が第55回ギャラクシー賞奨励賞に選ばれました。

 「宮武外骨-」を手掛けた津村健夫ディレクター(54)は言います。

 「背景に何があるか。じっくり時間をかけて見せることができるという点ではドキュメント番組の出番だという気がします。視聴者の興味をどうやって引っ張って、見てもらうか。作り手としての腕が試される」

 緻密な取材で得た「素材」を料理し、言葉だけではなく、映像ととも伝えていきます。

 いま、津村ディレクターが粘り強く取材しているテーマがあります。冤罪(えんざい)事件です。

 「やっていて謎解き、ミステリー、作り手としてはおもしろい。ご本人にとってはおもしろいどころの話ではないでしょうが、やりがいはあります」

 滋賀県東近江市の湖東記念病院で2003年、入院患者の男性(当時72)の人工呼吸器を外して殺害したとして殺人罪で懲役刑が確定し、無実を訴えて裁判のやり直しを求めていた元看護助手西山美香さん(38=彦根市)。昨年12月20日、大阪高裁は再審開始を決定。逮捕から13年、無罪判決への扉が開きました。

 津村ディレクターは半年以上前から西山さんの家族や関係者に密着し、西山さんが出所後は独占インタビューを行い、冤罪(えんざい)を訴え続けた思い、事件の真相を追い続けました。再審開始が認められる前の昨年11月、映像シリーズとして「映像’17 私は殺していない~呼吸器外しの真相~」を放送しました。

 第2弾として「映像’18 再審決定~元看護助手・無実の訴え」が28日深夜0時50分(関西ローカル)から放送されます。大阪高裁が再審を開始するかどうかの判断を下す12月20日、津村ディレクターは早朝から西山さんの自宅で独占取材。当日、裁判所に向かう前に西山さんが自宅近くに祖母の墓参りをする映像も流れます。墓前で両手を合わせる西山さん。その表情がすごく神々しい。表情でも語らせる-。作り手の熱量も伝わってきます。

 昨年12月25日、大阪高検は再審開始を認めた大阪高裁決定を不服とし、最高裁に特別抗告しました。今後、最高裁が再審開始の是非を判断します。西山さんが無罪判決を勝ち取るまで、津村ディレクターの息の長い取材が続きます。

【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)