当代トップきっての男役の体現者、宙組トップ真風涼帆は、宝塚最後の公演で、ジェームズ・ボンドに臨む。退団公演「カジノ・ロワイヤル~我が名はボンド~」は、兵庫・宝塚大劇場で11日に開幕する一本物。17年11月のトップ就任から在位約5年7カ月、本拠地通算9作目で男役に別れを告げる。宝塚は4月17日まで。東京宝塚劇場は5月6日~6月11日。

トップ本拠地9作で退く真風涼帆
トップ本拠地9作で退く真風涼帆

泰然とした構え、たたずまい、男役としての包容力は当代随一。宝塚最後の役はジェームズ・ボンドだ。

「映画の007が有名ですし、印象的だと思うんですけども、私もやはり、スパイの王道作品といったイメージが強くて。スタイリッシュで、アクションも、スパイ業も完璧にこなすイメージでした」

稽古が始まれば「いつも通り、新しい作品を組の皆と一緒に作るという思いだけ」と言い、有終作への気負いも見せない。今回、小説「007/カジノ・ロワイヤル」をもとに描かれ、米ソ冷戦下での学生運動という舞台設定や、登場人物にもオリジナル色が強い。

「(作品が決まり)初めて小説を読ませていただき、映画とは違う心理的描写、思考的な部分が描かれていて、意外でした」

演出は小池修一郎氏。

「小池先生の演出で、かなりエンターテインメント性の高い作品になるのではと思いますし、先生からは『自分なりのボンド像を作っていけばいい』とアドバイスをいただきました」

1幕ではカジノの場面もあり、楽曲、ダンスでの表現場面もある。

「華やかでゴージャスなシーンになるのかな、と。男役がみな、スーツで始まるプロローグから、ジェームズ・ボンドっぽいスタートになっているのでは」

役の内面を探るうち、小池氏に言われ、その人間味に気づいた。

「生まれながら、何でもできるスーパーヒーローというわけではなくて。彼自身は国家公務員という(立場で)。彼自身の努力、培ってきたものを人として、職務として出していく。そこに魅力があるのではないか。遠くに見えるけど、でも実は、すごくかけ離れた存在ではない。そこが魅力かなと思います」

星組だった下級生時代から抜てきは続いたが、一方では歌、ダンス、芝居、表現力とスキルすべてを地道に磨き、頂点へ立った。

真風自身との共通点にも思えるが、その点には「確かにそうかもしれない。ありがとうございます」。そう言って笑い、「急にできるものではないので、そうなのかもしれないですね」と続け、自らの歩んできた宝塚の軌跡を思った。

宝塚最後の役でジェームズ・ボンドに臨む真風涼帆
宝塚最後の役でジェームズ・ボンドに臨む真風涼帆

スーツの着こなし、その麗しさは傑出している。

「男役でなければ、ここまで(スーツ姿を)考える人生ではなかったろうと(笑い)。今回、英国紳士。そこはバッチリ、ファンの皆さまに楽しんでいただけるよう、作っていけたら」

銃やハット、小道具の使い方、見せ方にもこだわり、「印象的なアイテムも多い。相乗効果になるようにお稽古で作りあげたい」と練り上げている。

演出の小池氏とは縁が深い。初舞台も小池氏の演出作で、最後は小池氏の一本物となった。

「尊敬する先生なので、最後の作品を担当していただけて光栄。最後の日まで学ばせていただきたい」

宝塚音楽学校の合格発表、入学シーズンに退団公演が始まり、本拠地を去る。

「この時期、音楽学校の受験生の姿を見ると、毎年、初心にかえり、気持ちも新たになる季節。そういった時期に私も、節目の時を迎えられ、感慨深い」

宝塚人生の転機のひとつが組替えだった。「ちょうど10年目に(星組から)宙組に組替え。節目だったと思います」。そして、宙組20周年の節目にトップに就き、25年でバトンを渡す。

「(20周年に)歴代のトップスターさんとお仕事させていただいて、宙組の歴史を肌で感じて、そのバトンを次につなげていけたらという思いでひたすら…。寿(つかさ)組長のお力、すべての宙組の皆さまのおかげ。下級生もほんとに頼もしく、安心しかない」

発足時から宙組に在籍する現組長の寿つかさも同時に退団する。かわした言葉は「私たちのものなので」と語らずも、はっきりとその絆は見える。

トップ就任後、見舞われたコロナ禍で、ファンとの交流の機会も変容した。

「(トップとして)絶対にこうあらねば-という思いを強く持ちすぎると、窮屈になりすぎるといいますか。イレギュラーにも柔軟に対応できるよう、自分自身も柔軟でありたい」

こう考えてきた。その姿勢が悠然とした頼もしさに映る。同時退団する相手娘役の潤花は、稽古場の時点から真風を「おかしいほどすてき」と表現する。自身では「最後」を意識せざるとも、稽古場で組の仲間からはその思いを感じる。

「ホントみんな、たくさんの愛をくれるので、幸せを感じています。私も心強いですし、みんなのエネルギーや頑張りを見て、私ももっともっと! って支えてもらっています」

退団の日も、その先へも、まだ思いを飛ばさない。「とにかく今は、この作品に没頭するだけ」と繰り返し、最後まで男役道を究めて退く。【村上久美子】

退団公演への思いを語る真風涼帆
退団公演への思いを語る真風涼帆

■次期トップは芹香斗亜

次期トップは、星組時代の後輩でもある芹香斗亜に決まった。まだ下級生だった星組時代を思えば「まさか、私が芹香にバトンを渡せるとは」と感慨もある。自身は星組から宙組へ、芹香は花組を経て宙組へ。「長い年月、ずーっと隣に居続けてくれた。芹香がいてくれたから背を押してもらえ、今の自分がある。刺激しあえる存在が隣にいてくれたのは大きく、私はただ単純にうれしい」と言い、バトンを渡す。

◆アクション・ロマネスク「カジノ・ロワイヤル~我が名はボンド~」(原作/イアン・フレミング「007/カジノ・ロワイヤル」白石朗訳、創元推理文庫刊 脚本・演出=小池修一郎) 1968年、米ソ冷戦の最中、パリでは学生や労働者らを中心に「5月革命」と呼ばれる反体制デモが起きていた。過激派は地下組織「赤軍同盟」に吸収された。ジェームズ・ボンドに、ル・シッフルと呼ばれるソ連のスパイを倒すよう指令が出る。ル・シッフルは赤軍同盟に送る資金を使いこみ、カジノで一獲千金を狙っていた。ボンドは、ギャンブルの腕を生かして彼の資金源を断ち、情報を吸い上げようと、ジャマイカの大金持ちになりすます。

☆真風涼帆(まかぜ・すずほ)7月18日、熊本県生まれ。06年入団。星組配属。15年5月に宙組、17年11月、相手娘役に星風まどかを迎え同組トップ。19年、新人主演の思い出作「オーシャンズ11」主演。21年6月に2人目相手娘役に潤花を迎えた。昨年2月、自身の初舞台作「NEVER SAY GOODBYE」再演で主演。トップ在任5年7カ月。身長175センチ。愛称「ゆりか」「すずほ」。

◆おことわり 公演日程については変更の可能性があります。最新情報は、宝塚歌劇団の公式ホームページなどでご確認ください。