宝塚歌劇団の月組トップ月城かなと、トップ娘役海乃美月の新コンビは、兵庫・宝塚大劇場で、本拠地お披露目作「今夜、ロマンス劇場で」「FULL SWING!」に臨んでいる。珍しい2学年差。新生月組は、芝居演出の小柳奈穂子氏、ショー演出の三木章雄氏も認める芝居巧者な2人がけん引する。宝塚は31日まで、東京宝塚劇場は同2月25日~3月27日。

月城かなと(左)と海乃美月
月城かなと(左)と海乃美月

「文系の人」「思慮深い人」。今作芝居を演出する小柳氏は、月城についてこう話す。相手娘役の海乃には「あねご肌というか明るいところも、引っ張っていってくれるところもある」と言う。そのコンビが「すごくおもしろい」と見る。


もともと、芝居心のある2人。そのコンビの本拠地お披露目で今作を選んだのは、「お披露目」「正月」ゆえにラブコメディーで-というだけではなく、コンビの懐の深さに期待したからでもあったという。


芝居は、綾瀬はるか、坂口健太郎で18年に公開された映画を舞台化。映画監督を目指す助監督の牧野健司と、現実世界に現れたモノクロ映画のヒロイン美雪の愛を描く。月城演じる健司は青年期から老年期まで年齢幅が広く、小柳氏は「一生の長い部分になるので、月城の演技力が生かせる」と考えたと明かす。


モノクロ映画から飛び出したヒロインをあてた海乃は、新人、宝塚バウホール、外部劇場とヒロイン経験が豊富。そんな海乃に「娘役芸を生かしながら、内面的な表現ができるのでは」と考えたそう。


この両者が組むことによって「ビジュアルとしてもグッときますし、(互いに魅力を)増幅している。倍になっていけるコンビだなと思います」。期待通り、いや、それ以上の手応えを感じ取っている。


ショーの演出を担う三木氏は、トップ月城を「正統派」とみる。


「最近はどちらかと言うと、エネルギー、スピード、身近な感じとか、そういった人(魅力を持つスター)も多い。だけども、月城には『手が届かない』『あこがれ』のような魅力がある。宝塚の王道というか、昔ながらというか、そういったあこがれの対象になっている」


月城が雪組時代、バウ・ワークショップの演出を手がけた当時から、月城に往年のスターを重ねていたという。実際、月城は、トップ就任前に、宝塚の至宝である、あの春日野八千代さんが演じた「ダル・レークの恋」に主演し、好評を得ている。


また三木氏は、海乃に対して、稽古場で笑わないことに驚いたと明かした。それでも、初日が開けた後は「すごく楽しそうに見えてきた」と言い、月城との相乗効果で、2人そろって輝きが増していると見る。


クラシカルささえまとう美貌は、月城の大きな魅力のひとつ。前面に出すぎず、男役を立てる経験豊富な娘役の海乃との相性も良く、月城の美貌も引き立つが…。

▼▼【後編】月城が認めてほしいのは「美しさ」ではなく…▼▼

ただ、月城本人は「美しさ」をほめられることは、あまり好まない。小柳氏が言う。「そこじゃない、みたいな。その複雑性(な性格)が難しい」。その心を三木氏が補足して解説した。「多分、本人の中では(男役として芸を)いろんなこと計算して、積み上げていってね。鮮やかに、手品師みたいに。そこを認めてほしいんでしょうね」。


確かに、下級生時代から、月城には「職人気質」が漂っていた。芝居、役柄へのアプローチ、ショーなら場面の意味、たたずまいまで、すべて掌握しようとするかのように見えた。


入団後、最初に配属された雪組では、後にトップになる早霧せいなの影響を受けている。ストイックに役へのめり込み、非運のダンサーから粋な江戸っ子まで硬軟織り交ぜた芝居巧者の舞台への取り組みを見てきており、手本となった部分も多いだろう。


小柳氏が言うように、常に「思慮深く」物事にあたってきたゆえ、下級生時代から身にまとっていた「落ち着いた雰囲気」にもつながった。思慮深さという意味では、相手役の海乃のキャラクターにも通じている。


研11(11年目)でのトップ娘役就任は、かなり遅め。と言っても、下級生時代から新人公演やバウでもヒロインに抜てきされており、遅咲きというわけでもない。海乃自身も「その男役さんに対して、娘役はどう存在したらいいのか、客観的に作品を考えることは、学年が上がって考えられるようになった。早い人はもっと若いうちに気づくかもしれないんですけど(笑い)」と実感している。


下級生時代はいざ知らず、月城と同じく、俯瞰(ふかん)的な物の見方ができることが、海乃の個性にもなってきた。「やっぱり、男役さんあっての宝塚。そこにしっかり寄り添える娘役でありたい」とも語る。


大正時代に誕生し、昭和、平成、令和と、108年の歴史を紡いできた宝塚歌劇団。伝統、原点に近いコンビが、今の月組新コンビのようだ。そんな2人が率いる新生月組。花組から戻ってきた月城の3期先輩、鳳月杏が、2人を最も近くで支える。花組をへて古巣の月組へ戻り、その技量は安定感を増す。


小柳氏も「やっぱり、ちなつ(鳳月)の存在のしかたが絶妙。そこに落ち着きがあるので、芝居なら話が広がっていくし、ショーでも可能性が広がりますよね」。二枚目も、三の線もこなし、ショーでは目線の使い方ひとつでファンを魅了する。三木氏も「ちなつは中間に立つことがすごくうまい」と見る。


今の月組には、節目10年目で高いダンス技術を誇る暁千星、新人公演時代から芝居に抜群のセンスを見せる風間柚乃ら、個性豊かな後輩も多い。


三木氏は、鳳月に対し「新しい月組になっていけるよう、すごく考えている。いつもクールで冷静だけど、ここ(ハート)がメラメラ燃えているのは分かる」と全幅の信頼を寄せる。


本拠地作の今作と自身初の東上主演作を終えた後、暁は星組へ組替え。かわって、雪組の彩海せらが新たに加わる。今作を終えれば、またリフレッシュする月組。月城、海乃、そして鳳月もまた「思慮」を重ねて、どこまで進化していくのか。期待はふくらむ。【宝塚歌劇団担当=村上久美子】