放送倫理・番組向上機構(BPO)が9日、オンラインで放送倫理検証委員会の会見を開いた。その中で、放送倫理違反の疑いがあり、2月に審議入りを決めた、NHK BS1で21年12月26日に放送(同30日に再放送)したBS1スペシャル「河瀬直美が見つめた東京五輪」に、重大な放送倫理違反があったと判断したと発表した。

BPO側からは、NHKに対し、厳しい指摘や批判が相次いだ。委員を務める井桁大介弁護士は「今回の問題は、単なる過失を超えている。まず大きく1つ目は、五輪反対デモに男性が参加したのを確認しないまま、参加したと放送し、デモでは金銭が受領されたと報じ、事実でないことが捏造(ねつぞう)的に放送された」と指摘した。

NHKは、河瀬監督の教え子X氏が東京五輪期間中に取材、撮影するところに密着した。その中で、X氏が取材した年配の男性が公園で「デモは全部、上の人がやるから(主催者が)書いたやつを言った後に言うだけだから」「予定表をもらっているから、自分。それを見ていくだけで」などと語っている。その取材の前に男性が街中を歩いているシーンが流れるが、そこに「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕をつけた。

ただ、当該男性は約2時間のインタビューの中で、五輪反対デモに参加した経験があるとも、参加の予定があるとも語っていない上、五輪反対デモには関心がなく、行ったこともないと明言。一方で、番組ディレクターはカメラが回っていないところで、男性は五輪反対デモに行く予定はあると語ったとし、それが放送内容の根拠だと説明したが、そのやりとりは録音や録画、メモで記録されておらず、男性に対してデモに参加したことを確認もしていなかった。

井桁弁護士は「(NHKに)悪意が明確にあったとはないと思いますが、単なる過失にとどまらない、重過失に匹敵する重大な過失」と批判した。その上で「予定表が配られる、上の言うことに従うなど、別のデモにそういうことがあったと発言したのに、五輪反対デモに置き換えた。知りながらやったこと、故意に近いもの、捏造(ねつぞう)的に報じられたとしか言わざるを得ない。単なる過失ではないのが、重大な放送倫理違反」と批判した。

一方で、井桁氏は「捏造(ねつぞう)という評価までは出来ない」とも説明した。「別のデモに関するものだけれども、あえて五輪反対デモをおとしめるために、そちらの発言を持ってきて、五輪反対デモのものとして編集していたら捏造(ねつぞう)と言わざるをえないが、そこまでの意図、目的は認定していない。別のものと分かったけれど、安易に使ったというところまでの認定」とした。一部メディアからは、安易に使った時点で捏造(ねつぞう)では? との質問も出たが、同氏は「素材が別のものだということは分かっているが、明確に意図がなく、あえて使った。そこまでしか認定できない」と捏造(ねつぞう)とは認定できないとした。

また委員長代行を務める、高田昌幸東京都市大メディア情報学部教授は「基本的に裏を取るという取材のイロハのイの部分が、これほど欠落していると、こんな不確かな番組も出来てしまう」とNHKを痛切に批判した。

委員会の調査によると、かつて別のデモで2000円程度の金銭を食事代として受け取ったことがあるという男性の発言を聞いたディレクターは、その点を深掘りせず、別のデモで本当に金銭の授受があったかの裏付けも取らなかった。男性が、それまでに参加したという別のデモについての体験を語っているにすぎないが、番組ではその事実は明かされず、あたかも五輪反対デモの実体験を語っているかのように編集された。

高田氏は「こういう問題があると、すぐにコンプライアンスの問題に傾きがちですけれども、それより、はるか以前に、裏を取るという、ごく当たり前の行為が、これだけ軽んじられていては、ダメだろうと、今回のヒアリングを通じて強く感じました」とNHKを厳しく切り捨てた。その上で「そのあたり、どう回復するかがNHKさんには問われていると思います」と、NHKに対し、注文を付けた。

BPOによると、重大な放送倫理違反とされた事案は5件目だという。